複雑・ファジー小説

Re: 絶望色のPartyNight(参照450突破!) ( No.107 )
日時: 2013/12/19 16:04
名前: 深玖 (ID: R9GAA8IU)



      最終章 第1節 「桃果と私」




  6月15日 PM 0:30 都内警察署

「よし、今日はもう上がっていいぞ!」
 上司の野太い声が響く。目の前には、書類の山が積まれている。本当に帰っていいのかな?
「あの、良いんですか?まだこの事件は解決して……」
 すると、上司は突然笑い始めた。
「ハハハ!何言ってんの大蔵君!もうクロも特定された。凶器も現場も、犯行時刻だって秒単位で言えるぞ?解決したも同然じゃあないか。とにかく、書類の処理とかは俺達が適当にやっつけとくから。君はもう帰っていいよ」
 確かに正論だ。でもどうしようもなく。
「分かりました。では、お先に失礼します」




 退屈だ。






 私の名前は大蔵結雲(ゆくも)、29歳独身。この署で刑事をやっている。私が刑事に憧れたのは高校生の頃。ある刑事ドラマを見たのがきっかけだった。主人公2人組が難事件も名推理で素早く解決するのを見て、「私もこんなことできれば、モテるかなあ」なんて考え、成り行きでこの道に来た。努力の結果、一応重大事件を扱う部にいるのだが……




(今度の事件もDNA鑑定と監視カメラのおかげでスピード解決か……)
(なんでいっつもこうなんだろ……)

 私は署の前の階段を速足で駆けおりながら、考える。
 そう、この辺りは住宅街で重大事件はほとんど発生しない。今回の傷害事件だって、被害者が軽くナイフで切りつけられただけだった。
 しかも今回の事件に限らず、科学捜査の目覚ましい発達の「せい」で今ではタバコの銘柄から犯人を当てる代わりに、付着した唾液のDNAで犯人を特定するようになって「しまった」
 よって名推理を披露することもなく、30代目前まで独身で来てしまった。あーあ。

(でも、こんなことで立ち止まる私じゃない)
(事件がない地域なら、事件があるところに突撃しちゃえばいい)


(さぁ……一家惨殺事件で一躍有名になったあそこへ!)


 私は駅へと向かいながら、今回首を突っ込む事件についてまとめたスマホのメモを読む。……ちなみにこの資料は、あのアホ上司が居眠りしてる間に彼のパソコンでその事件の担当者にメールを勝手にうち、わざわざ送ってもらった物だ。
 事件は6月5日に発生。被害に遭った家は夫、妻、高校2年と中学2年の娘の4人暮らし。うち夫と妻が殺された。娘2人と家にあった金目の物は無事だったらしい。
 強盗ではないとして、この夫婦に恨みを持つ者の犯行と考えられていたが、2人とも誰かから恨みを買うような人ではなかったという。しかも、犯人の痕跡は家に「一欠片もなかった」。
 2人の娘に話を聞こうとしたところ、上の娘が男と行方をくらませてしまい、担当者もすっかりお手上げ状態らしい。



(なかなか難しい事件ね……)

 私は電車に乗り込み、スマホの電源を切る。

(でも、こういう事件こそ、私の手腕が発揮される良い機会かも)
(さあ、刑事大蔵結雲のShow Time!)