複雑・ファジー小説
- 第一楽章 ( No.2 )
- 日時: 2012/07/25 19:45
- 名前: nmmt ◆/QXiUp6Whg (ID: IXZEaJaO)
Note#01 世界を夢見る箱庭の少女
「悪いね、兄さん。討伐隊が戻るまでは、箱馬車は出せないって決まりなんだ」
若い馬方が客人に向かって、申し訳なさそうに苦笑した。続けて彼の口から「おかげで人も荷物も、ここ一週間街から動けないままさ」と、不満が漏れる。
「……商売人には気の毒な話だな」
馬小屋で休む馬たちを横目に見ながら、青年——ヴァイネは馬方に慰めの言葉をかけた。
乗り合いの箱馬車は街中の移動はもちろんの事、他の街へと渡る交通手段として、人々から特に重宝がられている存在だ。どの街でも一日に数便、定期的に運行されているものだが、それが使えないとなれば、目的地まで歩く他に方法は無い。
「で、その討伐隊はいつ戻るんだ?」
「さぁ……魔物の動きがいつもより活発だっていうし。大体いつも一、二週間ほどで戻ってくるから、まぁ『そのうち』だな」
「そうか」
ヴァイネはポツリ呟いて、街の防壁門に目を向けた。
街と外を隔てる大きな門の前には、彼が数日前にこの街に来たときと同様、この街の自警団の人間が二人立っているだけだ。街の外に凶暴な魔物がいるにしては警備が弱く、人員が足りないのか、それとも危機感が足りないのか、心もとなく見える。
「……隣街までなら歩いたほうが早そうだな」
ヴァイネの言葉を聞いて、馬方が失笑する。
「おいおい、こんな時に一人であの森越えるつもりなのか? そりゃ腕と脚力に自信があるなら、あんたの言うとおりだが……」
隣街までは箱馬車で半日、徒歩となれば二日はかかる距離がある。そのうえ魔物に襲撃される恐れがある中、小山をひとつ越えなければならないのだ。道が整備されているといっても、今の時期に好き好んで行く者はいない。
馬方の目の前に立つ若者は、身なりこそ冒険者らしい格好をしているが、体格は街の若者達と変わらない。彼の体で重い剣をまともに振れるのか、馬方には疑問だった。
「自分の身ひとつ守ってりゃいいんだから楽なもんだよ。討伐隊ってのが仕事してるなら、半分は方が付いてるだろ」
「……大した兄さんだな」
さらりと答えるヴァイネを見て、馬方はそれ以上口を挟もうとはしなかった。
「……冷やかしで悪いな。今度機会があったら使わせてもらうよ」
「ああ、あんたも道中気をつけな」
馬方に軽く手を挙げて挨拶をしながら、ヴァイネは街の中心部へと向かって歩き出した。太陽が西に傾くまで、かなり時間に余裕があったが、ヴァイネは出発を翌日まで延ばすことにした。移動手段を変えたことで、道中必要になる食料や道具を買い足す必要があったし、今から街を出たのでは日暮れまでに森を抜けるのは無理だろうと考えたのだ。
- 第一楽章 ( No.3 )
- 日時: 2012/07/25 19:46
- 名前: nmmt ◆/QXiUp6Whg (ID: IXZEaJaO)
(——そういや、お嬢様と約束してたんだったか……)
思い立ったらすぐ行動する性格なのか、ヴァイネは露店が立ち並ぶ大通りから、人を避けるように細い脇道へと入った。
日の当たらない細い道を抜け、開けた場所へ出ると、周囲の景色が一変する。手入れの行き届いた広い庭や、細かな装飾が施された外門、それに守られる大きな屋敷の数々。人と露店でごった返している大通りの近くとは思えない、静かで美しい空間を目の前に、ヴァイネは小さく息を吐いた。
(全く、今の俺には似合わない場所だな)
前方から微かにピアノの音が聞こえてくる。あの少女が弾いているのだろう、数日前と同じ旋律だった。
***
ヴァイネの再訪を待ちわびて、少女——ジュディットは1日の大半をピアノ部屋で過ごしていた。
あの日、ジュディットは去り際のヴァイネを引き止め、また訪ねてきて欲しいと懇願して、彼を困らせたのだった。そしてヴァイネは当初、旅の途中であることを理由にそれを断ったが、彼女があまりにも残念そうな顔をするので、良心が痛んだのか「旅立つ前に挨拶くらいなら」と折れたのだ。
しかしその条件として、ヴァイネは自分の事を誰にも言わないこと、素性に関して何も尋ねないことをジュディットに約束させたので、二人はまだお互いの名を知らずにいた。
(もうこの街から旅立ってしまったのかしら……)
昨日も、その前の日も、ずっと待っていたのに<彼>は訪ねて来てはくれなかった。憧れの<外の世界>から来た彼と、もっと話がしたいのに……。
屋敷で軟禁状態の生活を送っているジュディットには、友達と呼べる存在がいない。
<彼>はジュディットが初めて出会った屋敷の外の人間で、普段の生活では決して関わることのない存在だった。屋敷の中の人間のように規則で束縛することも、言動を咎めることもない。ジュディットには<彼>が、まるで自由そのものを見ているかのように、魅力的に映っていた。
そして、きっとあの方なら、屋敷の中の誰よりも世界のことを詳しく知っていて、ありのままを教えてくれるはずだと思った。
ほぅ、とジュディットの口から小さな溜息が零れ落ち、ピアノを弾く手が止まる。
広い部屋の中は、風が木の葉を揺らす音が聞こえるだけでとても静かだ。開かれた窓から爽やかな風が通り抜けても、ジュディットの心の中は期待や不安が入り混じって、モヤモヤと複雑だった。数日前は待ち遠しさでいっぱいだったのに、次会える時が別れの時だと思うと、胸が締め付けられるように痛くなる。
「——お嬢様は他の曲は弾かないのか?」
「!」
突然背後から声を掛けられ、ジュディットの肩が大きく震えた。慌てて振り向いた先——窓の傍に、いつから居たのか壁に寄りかかる<彼>の姿を見つけ、ジュディットは勢い良く椅子から立ち上がった。そしてばくばくと音を立てる心臓を鎮めるために、一度ふぅ、と息を吐いて呼吸を整える。
- 第一楽章 ( No.4 )
- 日時: 2012/07/25 19:48
- 名前: nmmt ◆/QXiUp6Whg (ID: IXZEaJaO)
「……本当に、来て下さったのですね!」
「ああ、約束したからな。相変わらず警備が手薄で入りやす——っと?!」
ジュディットは嬉しさのあまり、思わずヴァイネの元へと駆け出して、勢い余ってそのまま彼の胸へ飛び込んだ。
「わたくし、紅茶を用意して貴方をお待ちしていましたの!」
ジュディットはヴァイネを見上げて、青い瞳をキラキラと輝かせている。ヴァイネはそんなジュディットを見て「へぇ」と人悪く笑うと、彼女をそっと自分から引き離した。
「随分と積極的だな」
「! わ、あ……あの、申し訳ありません! 貴方がいらしてくれて、とても嬉しくて、わたくし……っ」
再会に浮かれて取った行動が不躾だったことに気付き、ジュディットは慌てて後退した。恥ずかしくなって顔をそらし、火照る頬を冷まそうと手を当てたが、熱は簡単には下がらない。そんな彼女を見て、ヴァイネが小さく笑った。
「気にすんな、少しからかっただけだ」
そう言って一呼吸置き、今度は真面目な面持ちで口を開く。
「明日の早朝、この街を発つ事にした。お嬢様と会えるのはこれが最後だろうな」
一瞬、ジュディットは悲しげな表情を浮かべたが、すぐに笑顔を作ってヴァイネに話しかけた。
「では、今日は是非ゆっくりしていって下さい。お菓子も用意していますの」
「……まぁ、お屋敷の人間に見つからない程度になら、な」
「はい! ——どうぞ、こちらですわっ」
ジュディットが細い腕でぐいぐいとヴァイネを引っ張り、彼を灯り窓の傍に置かれた小さなテーブルへと案内する。
ヴァイネは丈の長いコートを脱いで椅子の背に掛け、自室でくつろぐかのように足を組んで腰掛けた。テーブル上のティースタンドには美しい装飾が施されていて、その皿に宝石でも飾るかのように焼き菓子が並べてあった。
「お好きなだけ召し上がってくださいね。すぐに紅茶も用意しますわ」
ジュディットがふんわり微笑んで、ヴァイネのもとを離れていく。ヴァイネは焼き菓子をひとつ摘もうとして手を伸ばしたが、ふと疑問を抱き、直前でその手を止めた。視線を少女に向ければ、思った通り、おぼつかない手つきでティーセットを扱う姿が見える。
- 第一楽章 ( No.5 )
- 日時: 2012/07/25 19:49
- 名前: nmmt ◆/QXiUp6Whg (ID: IXZEaJaO)
「——紅茶の淹れ方、分かるのか?」
「……ええと、その……大丈夫だと思います……」
ヴァイネが見かねてジュディットに声をかけると、少し遅れて歯切れの悪い返事が戻ってきた。
「普段は使用人の仕事だろ」
「はい……」
「俺が代わる」
「でも、貴方はお客様ですわ」
「いいんだよ、別に」
ヴァイネは小さく笑って席を立ち、向かいの椅子を引いた。
「……ほら、私に任せてお嬢様はこちらでお待ち下さい、ってな」
給仕の真似をするように、<彼>が椅子を指している。ジュディットは戸惑いながらヴァイネと椅子を交互に見たが、任せたほうが良いと思ったのだろう、素直に従って席へと着いた。しかし手持ち無沙汰なのか落ち着かない様子で、そわそわとヴァイネの様子を伺っている。
「……何か話したいことがあるんじゃないか?」
用意されていた茶器を慣れた様子で扱いながら、ヴァイネはジュディットをちらりと見た。
「はい……?」
「でなきゃ、わざわざ俺をお茶席に招待しないと思ったんだけどな」
ジュディットは何かを考えるように俯いたが、すぐに首を横に振った。
「いえ、特には……。貴方とお話出来るなら、何でも良かったので」
「……そうか」
(話し役は俺の方か)
ヴァイネが考えこむように口を閉ざしてしまうと、沈黙が部屋を支配したようだった。
「……ええと、その……」
ジュディットは会話が途切れて気まずく思ったのか、黙々と支度を続けるヴァイネに声をかける。
「ん?」
「ピアノは、趣味で弾いていますの?」
- 第一楽章 ( No.6 )
- 日時: 2012/07/25 20:58
- 名前: nmmt ◆/QXiUp6Whg (ID: IXZEaJaO)
「まさか」
その質問にヴァイネは思わず失笑した。
「俺が趣味で弾くように見えるのか?」
「本当に、とてもお上手でしたもの! 繊細で優しくて、でも、力強さもあって……!」
「過大評価しすぎだ。腕はお嬢様と大して変わらないだろ。ガキの頃に習ってたってだけだよ」
「でも、本当に素敵でしたわ」
きらきらと輝く彼女の瞳を見れば、その言葉が本心である事はヴァイネにも分かった。絶賛を受けるほど特別上手いわけではないが、褒められて悪い気はしない。
「そりゃどうも。……お嬢様はピアノが好きなんだな」
「はい、とっても。貴方は違いますの?」
「まぁ、嫌いじゃないが」
「では一緒ですわ。嫌いの反対は好きでしょう?」
そう言ってジュディットがにこにこと微笑む。
「……そうだな、久しぶりに弾いたらそれなりに楽しかったよ」
ジュディットにつられてヴァイネも小さく笑った。そして手元の砂時計の砂が、残りわずかで落ちきりそうなのを見て、ヴァイネはテーブルの上に温めたカップとソーサーを二人分用意した。ジュディットの目の前で紅茶をカップに注ぐと、アゲートのように鮮やかで美しい色をした紅茶から、気品あふれるいい香りが広がってゆく。
「ほい、お待たせ」
「ありがとうございます」
「どういたしまして。……ストレートでいいのか?」
「はい」
ジュディットがうなずくのを見て、ヴァイネは椅子に腰掛けると、シュガーポットを手前に引き寄せた。
「……話なら何でもって言ってたが、さっきお嬢様が弾いてた曲の元になってる話は知ってるか?」
シュガーポットの蓋を開け、角砂糖をひとつ摘みながらヴァイネが問いかける。
ジュディットは少し考えた様子の後、「いいえ」と首を振った。
「初耳ですわ。そんな話がありますの?」
興味深げに澄んだ瞳を輝かせるジュディットを見て、ヴァイネは微苦笑する。
「あんまり期待されると困るな。大して面白くもない昔話なんだが」
そして一呼吸おいて、口を開いた。
- 第一楽章 ( No.7 )
- 日時: 2012/07/25 21:02
- 名前: nmmt ◆/QXiUp6Whg (ID: IXZEaJaO)
「<歌姫と聖騎士物語>って童話は読んだことがあるか?」
ヴァイネの言う童話とは、子供の頃に誰もが一度は聞く機会のある、世界的に有名な物語のことだった。
フィアンナという名の美しい姫君がこの物語の主役であり、彼女の歌声には聞いた者を幸せにする力があった。フィアンナ姫はあるとき、魔王にさらわれて塔に閉じ込められてしまうのだが、話を聞きつけた勇敢な騎士がフィアンナ姫を塔から救い出し、二人は恋に落ちて結ばれるといった内容だ。題名や内容は各地で都合の良いように少しずつ改変されているが、史実を元にして作られたと云われている。
ジュディットも幼い頃、よく母親に読み聞かせてもらっていた。
「はい、大好きなお話ですわ。あのお話が元になっていますの?」
ジュディットの目が一段と輝きを増す。
「なら説明はいらないな。——俺達の地域じゃ、あの姫様のことを<希望の歌姫(シルウィア)>って呼ぶんだが、彼女が歌ったとされる歌を組み込んで作られたピアノ組曲にも、同じタイトルがついている」
ひとつ、ふたつと角砂糖を紅茶に沈めながら、ヴァイネが話を続ける。
「お嬢様が弾いてたのは、その<シルウィア>第三楽章の中の、<恋の歌>って名のついた小節だよ。姫様が魔王と戦う騎士の事を想って歌った歌らしい」
「まぁ、そうでしたのね! わたくし、メヌエットとしか知りませんでしたわ」
温かくて優しい旋律。——そして時に力強く、時に切なく……。恋というものは良くわからないけれど、物語と照らしあわせてみると、その旋律は<恋の歌>という名前にぴったりだとジュディットは思った。
「子守唄で歌われてる<平和の歌>って名の小節は有名だけど、それ以外はまず聞く機会がないからな。完璧な状態で残ってたら認知度もまた違うだろうが、楽譜が現存してんのは、第三、第四楽章だけだし」
「それは残念ですわ……。全部通しては聞けませんのね」
「なんせ大昔に作られた曲だからな。作者も分かってないし、今以上の解明は無理だっていうのが学者達の見解だ。俺が話せるのもこれくらいだよ」
「いえっ、お話が聞けて本当に良かったですわ! わたくし、今まで曲と物語を一緒に考えたことがありませんでしたもの。両方とも、もっと好きになりました」
ジュディットがにこにこと、嬉しそうに微笑む。角砂糖をまた一つ、カップの中に沈めていたヴァイネは、「それはよかった」と小さく笑った。
「そろそろ飲み頃じゃないか?」
「あっ、はい。……いただきます」
話に夢中になっていて、すっかり口をつける事を忘れていたカップを、ジュディットはヴァイネに言われるがまま手に取った。
一口飲んで、ほぅ、と小さく息を吐く。慣れ親しんでいるはずの味はどこか新鮮に感じられた。
- 第一楽章 ( No.8 )
- 日時: 2012/07/25 21:04
- 名前: nmmt ◆/QXiUp6Whg (ID: IXZEaJaO)
「……美味しいです、とっても」
喉に通すにはまだ熱いくらいだったが、お世辞ではなく、ジュディットは心からそう思っていた。今日は話し相手がいるからか、それとも<彼>が淹れてくれたからか……。
(幸せ……)
ジュディットはぽつり、心のなかで呟いた。こんなにも楽しく会話を交わすのは、いつ以来だろう。そう思った後、なぜか急に胸の中がモヤモヤとして、ジュディットは底知れぬ不安に駆られた。
「あの、外の世界は楽しいですか?」
少し間を空けて、ジュディットが躊躇(ためら)いの混じる声色で尋ねた。
「さぁ、どうだろうな。俺が楽しいと思うことと、お嬢様が楽しいと思うことが、一緒だとは限らないだろ?」
「そう……ですね。わたくし、お外にはもう随分長く出ていませんの。だから自由な貴方が羨ましくて……。宜しければ、貴方からお外の話を沢山聞きたいと思っていたのです。でも今は……」
「聞こうかどうか迷ってる、って?」
続くであろう言葉を察して、ジュディットの代わりにヴァイネが続ける。
「聞いてしまえば、見たい、行きたい、ってなるだろうし。——後々辛く感じるのなら、最初から聞かない方がいいって思ってるのか?」
「……すごいです、心が読めますの?」
ジュディットが驚いたように瞬きをする。
「はは、そうだったら生きるのが楽かもな」
紅茶をスプーンでかき混ぜながら、ヴァイネが小さく笑った。
「……でもまぁ、お嬢様は俺の生き方が羨ましいかもしれないが、世の中貴族の暮らしを羨ましいって思ってる奴の方がはるかに多いよ」
ヴァイネは独り言のように呟いて、紅茶の中に角砂糖をまたひとつ、ふたつと落としていく。
「貴方もですの?」
「俺は面倒なのは御免だな」
ジュディットはその言葉の意図するものを汲み取れず、首をかしげた。
- 第一楽章 ( No.9 )
- 日時: 2012/07/25 22:25
- 名前: nmmt ◆/QXiUp6Whg (ID: IXZEaJaO)
「面倒、なのでしょうか?」
「それはお嬢様のほうが詳しいんじゃないか」
「……分かりませんわ。わたくしには、比較する<ものさし>がありませんもの」
「それもそうか。ま、みんな自分が手に入れらないモノを見て、欠点なんか考えずに羨ましがってるって事だ。身分が違えば生活も常識もまるっきり違うし、人それぞれだけどな」
そう言いながらヴァイネは、紅茶の中に沈む砂糖を銀のスプーンでつつく。
「けど、外に出たいのなら、屋敷からこっそり抜け出そうとは思わないのか?」
その問いにジュディットは首を横に振った。
「わたくしが自由にできるのは、この部屋と隣の自室にいる時だけですの。……わたくしには、この高さから抜け出す勇気も、自力で戻る術(すべ)もありませんわ。
それに、わたくしがいなくなったと分かれば、色々な方に迷惑がかかってしまいますし、……色々考えると心細くなりますの」
ジュディットの声は、言葉尻になるほど弱々しくなっていった。
「なるほどな。それで俺が羨ましいってわけか」
ヴァイネは苦い笑みを浮かべた。彼女を喜ばせる言葉を言うのは簡単だが、後々面倒になることが容易く想像できて、別の言葉を探した。
「あいにく、俺は勇敢な騎士様とは違うからな。お嬢様の話を聞くくらいしか出来ないが、日が暮れる頃までなら愚痴でも何でも付き合ってやるよ。もちろん、外の話を聞く気があれば話してやるし」
慰めるような優しい声でヴァイネが言う。
「ありがとうございます。……やっぱり折角の機会なのでお願いしたいです」
ジュディットは少し恥ずかしそうに、はにかんだ笑みを見せる。
「いいぜ、どんな話が聞きたい?」
ヴァイネがそう尋ねた後、カップを口に近づけたのを見て、ジュディットは思わず「あっ」と、不安と驚きが入り混じったような声色を漏らした。
- 第一楽章 ( No.10 )
- 日時: 2012/07/25 22:27
- 名前: nmmt ◆/QXiUp6Whg (ID: IXZEaJaO)
「ん、どうした?」
「いえ……、お砂糖、沢山入れていた気がしたので……その、」
「甘い方が好きなんだよ」
ヴァイネはさらりと答えたが、ジュディットが見ていただけでも、角砂糖の数は五つ、六つ、いや、もっと多く入っていたかもしれない。一つ入れるだけでも十分甘いのに、あんなに沢山入っていると一体どんな味になるんだろう……、とジュディットは思ったが、全く想像もつかず、その甘さを考えると少し恐ろしくなった。
「意外ですわ」
「そうか?」
「はい、珈琲はブラックでお飲みになるようなイメージでしたの」
「そりゃ悪かったな、お嬢様のイメージを崩したようで」
ヴァイネは小さく笑い、平然と紅茶を飲んでいる。
「で、リクエストは無いのか?」
「はい、わたくしにとっては全てが初めて聞くお話だと思いますの。だから何でも構いませんわ」
「……そうだな、じゃあ俺とお嬢様が平等になるように、他人から聞いただけで未体験の話にしとくか」
淡々と語るヴァイネを映すジュディットの瞳は、無邪気な子供のようにきらきらと輝いていた。
***
一年を通し温暖な気候の街も、夜風に吹かれると少し肌寒い。夜が更け、街灯の光も消えた中、街の中心部——この街の象徴でもある大時計台の下で、一人の男が月を見上げて立っていた。
淡く光る月明かりでは顔までは分からない。しかしそれは間違いなく主君の姿だと、その場を訪れた男は思った。
「——わざわざ呼びつけて悪かったな」
男が声をかけるよりも早く、主君は未だ空を見上げたまま、呟くようにそう言った。
「いいえ」
「どうだったんだ?」
主君が男に問いかける。
- 第一楽章 ( No.11 )
- 日時: 2012/07/25 22:27
- 名前: nmmt ◆/QXiUp6Whg (ID: IXZEaJaO)
「集落の跡はありましたが、やはり唄守の神子の姿は何処にも。これでリストの場所は全てあたり終えました」
淡々と答える男の声には、まったく感情が篭っていないようだ。
「……そうか」
「先日の<希望の歌姫(シルウィア)>の代替品を使ってみては?」
「あれは世の理(ことわり)を知らない」
まだ若い主は提案を渋ったが、男は引き下がらない。
「多少の危険は承知の上、申しております。貴方が世の理を写せば、神子と同等の力を持つはずです。我々に残されている時間が多くない事は、若君もご存知かと思います。敵に先手を打たれては全て水泡に帰すゆえに、どうか早めのご決断を」
「分かっている。……そうだな、朝までには答えを出そう」
主君は気が向かない様子で言葉を返し、一息ついて男に指示を出す。
「神子の事はもういい。お前は屋敷に戻って各国の動向を把握し、なにかあれば連絡を頼む」
「はい。……私は常に、我が主に救済神の加護がある事を祈っております」
男は主君に一礼すると、闇夜に紛れて姿を消した。
再び一人になった主君は、月が鈍雲に隠れる様をぼんやりと眺め、無音の中に溜息を落とす。
「神子や救済神に頼らずとも、奴さえ消せばそれで終わる話じゃないか」
募った苛立ちは誰の耳にも届かないまま、その場に溶けて消えてゆく。
(……テオが聞いたら俺に反対するんだろうな)
月が鈍雲から顔を出し、淡い光が時計台の文字盤を照らした。主君を急かすように、夜明けは刻々と迫っている。
***
- 第一楽章 ( No.12 )
- 日時: 2012/07/25 22:29
- 名前: nmmt ◆/QXiUp6Whg (ID: IXZEaJaO)
夜が白々と明け始めている。日の出までまだ少し余裕があるからだろう、街中にヴァイネ以外の人の姿はなかった。鳥達が元気に会話する声を聞きながら、ヴァイネは眠気を覚ますように大きく背伸びをした。
昨日聞いた宿屋の女将の話では、早朝に街を発っても、夕暮れまでに徒歩で森を抜けるのはギリギリらしい。寄り道をする暇は無いにもかかわらず、ヴァイネはジュディットの屋敷の前で立ち止まった。まだ人が活動を始めるには早すぎる時間だというのに、屋敷の一室には明かりが灯っていた。
(あの部屋……、確か、ピアノ部屋の隣が自室って言ってたな)
窓が開いているのは分かっても、人の姿は目視できない。気になったヴァイネは外壁を乗り越え、敷地内へ侵入した。部屋の真下へ来ると、トン、と地を蹴って近くの大木の太い枝に手をかけ、軽い身のこなしで軽々と木を登ってゆく。そして容易に目的の部屋の広縁へ乗り移ると、そのまま躊躇(ためら)うことなく部屋の中へ踏み入った。
白を基調とした気品のある、落ち着いた内装の室内だった。しかし年頃の娘の部屋としては、少し殺風景にも見える。ヴァイネがその広い室内をくまなく探す必要も無く、ジュディットは窓のすぐ傍で、壁を背にして座り込んでいた。
「おきてるのか?」
膝を抱えてうつむくジュディットに、ヴァイネが声をかけると、彼女の肩が大きく震えた。
「わざわざ来てくださったのですね……。今日は約束してませんでしたのに」
ジュディットは顔を伏せたまま、弱弱しく言葉を返した。その姿を見て、ヴァイネが眉をひそめる。
「……見送りでもしてくれるのかと思ったが、違ったようだな。どうしたんだ? 今日は元気ないな」
「貴方に会いたかったのです……でも会いたくなかったのです」
「結局どっちなんだ」
「……分かりませんの。お願いです、何も聞かないで下さい」
ジュディットは小さく「ごめんなさい」と呟いて、それ以上は何も語らなかった。
(昨日のがまずかったか……)
ヴァイネは小さく溜息をこぼした。彼女が何も言わずとも、落ち込む原因の一つに自分の存在があるのは明らかだった。自分と彼女自身を比べて、自由にならない己の境遇を嘆いているのか、ただ別れが悲しいだけか、その両方か……。詳しい理由が分からずとも、何と声をかければ彼女が喜ぶのかは、容易に想像できた。
「逃がしてやろうか?」
思ってもない言葉だったのだろう。ジュディットは驚いたように顔を上げた。
- 第一楽章 ( No.13 )
- 日時: 2012/07/26 13:41
- 名前: nmmt ◆/QXiUp6Whg (ID: IXZEaJaO)
「逃がす……?」
「俺が羨ましいって言ってただろ? 外に出たいのなら、力を貸してやるよ」
ヴァイネは悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべて、ジュディットの顔を見る。彼女の顔は泣き腫らしたのか目元が赤く、顔色も少し悪く見えた。
「本当、ですか……?」
信じられない様子でジュディットが聞き返す。どこか切実な面持ちの彼女を見て、ヴァイネも今度は真顔で口を開いた。
「昨日みたいに心細いって言うならやめとけよ。世の中ってのは楽しいことばかりじゃないし、お嬢様が後悔することになっても、俺は責任取らないぞ」
「いえ、お願いしますわ」
ジュディットは躊躇うことなく言葉を返した。
「後悔なんてしないです。それに、貴方が傍にいてくださるのですもの、心細くなんてありませんわ」
にこにこと嬉しそうにジュディットは微笑んでいる。ヴァイネは思わぬ返答に言葉が出なかった。
(まさか、俺について来るつもりなのか……)
しかし世間知らずのお嬢様の事だ、どうせ遅かれ早かれ「帰りたい」と言って泣き出すに違いない、とヴァイネは思った。少しぐらい付き合ってやって、お嬢様をからかうのも面白いかもしれない。そのうち自分がどんなに恵まれた暮らしをしていたのかが分かって、彼女もいい勉強になるだろう。
「そうか。……俺はお嬢様が泣いて頼んでも引き返さないからな。一緒にこの街出るつもりなら覚悟しろよ」
わざと脅すように、ヴァイネは人の悪い笑みを浮かべる。
「はい、わたくしも貴方に迷惑をかけないよう、気をつけますわ」
ジュディットは姿勢を正すと、ヴァイネに向かって丁寧に頭を下げた。
「では改めまして、これからよろしくお願いいたします。わたくし、ジュディット・フィオナ・クーヴルールと申します」
「自己紹介は後だ、日が昇る前にここを出るぞ」
窓の外はすでに朝焼けに染まり始めている。やがてそれが青空へと変わりゆくまで、時間はあまり残されていなかった。
ヴァイネは自分の予備の荷袋をジュディットに与えて、必要最低限の物だけ中に詰めるように伝えた。ジュディットは言われたとおりに、急いで替えの衣装や小物を袋へ詰め込んでゆく。
しかしドレッサーの引き出しを開けたところで彼女は持ち出す物に迷いはじめ、順調だった荷造りの手が止まる。
- 第一楽章 ( No.14 )
- 日時: 2012/07/26 13:41
- 名前: nmmt ◆/QXiUp6Whg (ID: IXZEaJaO)
「まだかかりそうか?」
待ちかねたヴァイネがジュディットに声をかける。
「あの、髪飾りを付けていきたいのです。赤と白、どっちがいいと思いますか?」
「……急いでるって言わなかったか? 両方とも荷物の中に入れとけばいいだろ」
「でも、今日はわたくしにとって特別な日ですもの」
どうやらジュディットにとって、それは譲れないことのようだった。ヴァイネは溜息をつきながらも、彼女に付き合って髪飾りを眺めた。
「両方とも、亡くなったお母様から頂きましたの」
どちらも薔薇の花をモチーフにしたもので、一級品であることがすぐに見てとれる品だった。上品な布地にレースのリボンがあしらわれていて、装飾には銀細工と宝石がふんだんに使用されている。
「……そうだな、赤か白かで選ぶなら、赤がいいんじゃないか」
ヴァイネはジュディットが迷っていたものとは違う、ダリアの花を模した髪飾りを手にとった。二つと比べると華やかさに欠けてやや見劣りするが、高価なものに変わりはない。
「付けるならこっちにしとけ。今日は動き回るし、大切な物を失くすと困るだろ?」
「! 貴方の言うとおりですわ、そうしますっ」
ジュディットは髪飾りをヴァイネから受け取って、鏡を見ながら慣れた手つきで髪に留める。ヴァイネは別に色などどうでも良く、ただ目に留まったものを選んだだけだったが、ジュディットの淡い桃色の髪に、赤い色はよく似合っていた。いや、恐らく白を選んでも似合っていただろう。ヴァイネはジュディットの代わりに髪飾りを袋に詰めながら、女は身だしなみの事になると面倒だ、と思っていた。
「これで最後でいいのか?」
「はい、大丈夫ですわ」
ヴァイネはジュディットに確認すると、荷袋を閉じて背中に背負った。そして外に人の姿がないか警戒しながら、窓の縁に片足をかけてジュディットを呼ぶ。
「……いいか、本当に逃げる気あるなら絶対に悲鳴は上げるなよ。屋敷の人間に気付かれたら終わりだからな」
「はい」
「俺の首の後で手を組んで、しっかり離さないように力入れとけ。怖いなら目瞑っとけばいいから」
こくりと頷くジュディットを抱きかかえると、ヴァイネは助走をつけ、勢い良く窓から飛び降りた。太い木の枝をタン、と蹴って、猫のようにしなやかな身のこなしで芝地の上に着地すると、ジュディットを抱えたまま庭を駆け抜け、外壁を乗り越える。そしてジュディットをそっと下ろした後、ヴァイネは緑地の中から隠しておいた荷物を拾い、腰に剣を装備して外套を身にまとった。
「行くぞ、こっちだ」
ヴァイネがジュディットの手をとって、足早に歩き出す。
- 第一楽章 ( No.15 )
- 日時: 2012/07/26 13:42
- 名前: nmmt ◆/QXiUp6Whg (ID: IXZEaJaO)
「前向いて歩けよ」
「は、はい」
ジュディットはヴァイネに先導されるがまま、遅れないように必死に足を動かした。瞳に映るのは見慣れない景色ばかりで、自分達が今、街の外を目指しているのだとは分かっても、そこまでの道筋も、あとどれぐらいの距離があるのかも、何も分からない。
幸いなことにすれ違う人の姿はなかったが、街中をゆっくり眺めるような余裕はなかった。時折ヴァイネが「大丈夫か?」とジュディットに声をかける以外、会話も全くなかったが、急いでいても自分のことを気遣ってくれているのだと思って、ジュディットはそれが嬉しかった。
「あの……」
「なんだ、ジュディット嬢。帰りたくなったか?」
「ち、違いますっ」
どことなく張り詰めた空気の中、意を決して話しかけたというのに、からかうように言われて、ジュディットは必死に首を振った。
「わたくし、貴方のお名前をまだ聞けていませんわ……。お屋敷から連れ出してくれた御方を、きちんと名前でお呼びしたいのです」
ジュディットがそう伝えると、ヴァイネは足を止めた。以前、素性に関して何も聞かないとジュディットに約束させたが、あの時とは状況が違う。今はジュディットの信頼を得たほうが、行動しやすいだろうとヴァイネは思った。
「……ヴァイネだ。テオフィル・ヴァイネ・リュシドール。訳ありなんで、呼ぶならミドルネームにしてくれよ」
「リュシドール……」
温室育ちのジュディットにも、その名前には聞き覚えがあった。隣のミルザム大陸を統べるユスティティア帝国に、数世紀前から仕えていてるという、由緒ある公爵家の名だ。成り上がりの貴族やジュディットの家のような下級貴族とは、比べものにならないほど歴史も格も違う。
「まぁ、貴族の方でしたのね!」
「……昔の話だ」
呟くように吐かれたその言葉を、ジュディットは上手く聞き取る事ができなかった。
「——さ、早く街を出るぞ。大事なお嬢様を誘拐した罪は重いだろうし、俺は捕まりたくないからな」
聞き返す間もなく、ヴァイネはジュディットを急かして足早に歩き始めた。
「それは違いますわっ。わたくしの意思で貴方とご一緒していますもの!」
慌ててジュディットが後を追いながら反論する。
- 第一楽章 ( No.16 )
- 日時: 2012/07/26 13:43
- 名前: nmmt ◆/QXiUp6Whg (ID: IXZEaJaO)
「はは、どっちにしろ屋敷に不法侵入してるしな」
ヴァイネにそう言われてしまえば、ジュディットには返す言葉が見つからなかった。——もし彼が捕えられてしまったら、何の力もない自分では助けることができない……。足手まといになってはいけないと、ジュディットは己に言い聞かせながら、ヴァイネの後ろを着いて歩く。
街全体を囲う防壁門の近くまで来ると、閉じた門の前に、街の自警団の男が二人、手に槍を持って立っているのが見えた。ジュディットは緊張で身を強張らせ、ヴァイネの服をぎゅっと掴む。
「そんなに心配しなくても大丈夫だ。ジュディット嬢は何も言わずに俺を見てればいい」
ヴァイネは平然とした様子で門番に近づき、ねぎらいの声をかけた。
「閉鎖中のところを申し訳ないが、門を開けてくれないか?」
「魔物の繁盛期だが、急ぎの用か?」
自警団の男が訝しげな顔で理由を尋ねる。
「ああ。昨日の夜、鷹便が来てな。お嬢様をひどく可愛がっている大奥様が、流行病にかかってしまってお命が危ないそうなんだ。お嬢様は屋敷へ戻るために箱馬車を待つ時間が惜しいと仰ってな」
その場で作り上げた口実をヴァイネが流暢に語っている間、ジュディットは男たちにそれが嘘だと見抜かれないか、心配で仕方がなかった。
門番は不安げな表情で傭兵風の青年に寄り添う少女を見て、その青年の言葉を信用した。彼女が一刻も早く大奥様に会いに行きたくて、門を開けてもらえるかどうか心配しているのだろうと思ったのだ。
「そりゃお気の毒に」
男が先程より柔らかい声で二人に言葉をかけた。
「例年通りならもう討伐隊が戻ってる頃なんだが……。くれぐれも、道中気をつけて」
そう言うと男たちは閉じていた門を開き、二人を街道へと通してくれた。
- 第一楽章 ( No.17 )
- 日時: 2012/07/26 13:44
- 名前: nmmt ◆/QXiUp6Whg (ID: IXZEaJaO)
再び門が閉じられ、門番の姿が見えなくなった後、ジュディットはようやく肩の力を抜いて、目の前に広がる広大な風景に目をやった。
「ほらな、大丈夫だったろ」
ヴァイネは余裕の笑みを浮かべながらも、問題はここからだと思っていた。
見通しの良い平原には、一本の街道がまっすぐ伸びているだけで、迷う心配はない。隣街へ行くにはその先にある整備された山林を抜け、また街道を歩くだけでいいが、歩き慣れていないジュディットを連れていては、夕暮れまでに山を抜けるのは不可能だろう。彼女の捜索隊が結成され、その捜索範囲が街の外まで広がるのは、恐らく明日の朝以降……、そして彼らは人が通った痕跡を探しながら、自前の馬で追ってくるはずだ。遅かれ早かれ、隣街に着くまでには追いつかれるだろう、とヴァイネは覚悟していた。
(まぁ、危ない橋渡るのはコレが初めてじゃないし、何とかなるか)
「……さて、と。これから軽く山を越えることになるからな。ピクニックじゃないし、はしゃぐなよ」
ヴァイネはジュディットに忠告したが、その言葉は彼女の耳には届いていないようだった。目の前の光景に夢中になり、ジュディットは瞳をきらきらと輝かせるばかりだ。
「本当に素敵ですわっ。お空がこんなに広くて! 今からあの奥に向かいますのねっ」
「おい……、俺の話聞いているか?」
ヴァイネは期待に胸を膨らませるジュディットを横目に、「先が思いやられるな」と大げさに溜め息を吐いた。
Note#01 END