複雑・ファジー小説
- Re: 本当のわたし ( No.14 )
- 日時: 2012/06/10 12:43
- 名前: 羽月リリ ◆PaaSYgVvtw (ID: aMIPEMQ3)
- 参照: サブタイトル思いつかなーい(ToT)
No.4◇
部屋に戻ると、明るい、アップテンポな曲が大音量で流れていた。
「 …って、これ、わたしの曲じゃん!」
「違うよ! 久遠純歌の、昨日発売の新曲!」
「久遠純歌はわたしだから! 恥ずかしいから、やめて!」
顔を真っ赤にする真白を見て、玲音が大笑いする。
「良いじゃん、良いじゃん! オレ、この曲好きだよ!」
「そう言う問題じゃない!」
「じゃあ、どういう問題だ!」
「 …それは——っ」
真白は、ムッとして玲音を睨み付けた。一方の玲音は、勝ち誇った表情をしている。
そのとき、扉が開き、一人の女性が入ってきた。
「 …月乃さん」
真白が半眼になって呟いた。
彼女の名は、月乃。女性にしては、身長が高い。肩につかない程度に切り揃えられた艶やかな黒髪は、現在、寝癖であらゆる方向へとはねている。少しつり上がった目は、漆黒の瞳で真っ直ぐな意志を感じさせられる。現在、半分位しか開いておらず、感じられないが。服は、上下ジャージだ。彼女はいつもこのジャージをパジャマ代わりにして寝ている。
「ふあーぁ… 。眠 …… 」
「…………月乃さん、今、何時か解って言ってます?」
盛大に欠伸をする月乃に、真白が呆れながら訊いた。
「んぁ? えーと… 、六時?」
大きな振り子時計を見て、月乃が呟いた。
「はい、そうです。午後六時です」
早口に言う真白を一瞥した月乃は、眠そうな眼をこすった。
「別に良いの。私は、夜型人間だし」
「……………」
真白は呆れて言葉が出てこない。
「 …てか、この歌、何?」
首を傾げて訊く女性に、玲音が答えた。
「真白チャンの新曲♪」
「 …わたしじゃなくて、久遠純歌」
訂正する真白に、玲音が茶化すように言った。
「久遠純歌は真白チャンだよね?」
「うるさい」
笑顔で言いながら、曲を止める真白。
「真白チャン、笑顔が怖いよ」
「なんか言った?」
「…………いや」
そんな二人のやり取りを無視して、月乃は小さく呟いた。
「 …腹、減った」
月乃は冷蔵庫へ向かう。その様子を見ていた玲音が「そう言えば」と言った。
「食料、何もありませんよ」
「ナンダッテ !?」
慌てて冷蔵庫の中を確認すると、確かに冷蔵庫の中には何も入ってなかった。——否、入っているのは、ケチャップとマヨネーズ、ホイップクリーム。
「何でこんな物しか入ってないんだ !?」
ギャーギャーと月乃が騒ぎ出す。月乃は目が覚めてくると、うるさくなる。寝起きは無口で機嫌が悪い。
「風チャンが、さっき捕まえた奴に食べさせてたっすよ」
耳を押さえた玲音が言うと、月乃は冷蔵庫のドアを閉め、彼を見た。
「はぁ !? 捕まえた奴? 誰だ、それ」
「なんか、わたしたちを殺そうとしてきたので」
玲音と同じように耳を押さえた真白がさらりと言う。
「殺そうとした !? 私が寝てる間に、何があったんだ—— !?」
「…………いろいろありました」
「月乃さんが、寝過ぎなんです」
玲音と真白が呆れながら言った。
月乃は、そんな二人を一瞥してから、「よし!」と身体の向きを変えた。
「そいつをぶっ殺す!」
高らかに宣言して、部屋を飛び出そうとした月乃を、慌てて玲音と真白が押さえる。
「放せーっ!」
じたばたと足掻く月乃だが、二人——しかも一人は男の力、勿論勝てるわけもなく。
「月チャンが、殺しにいかないなら、放す」
「 …解ったよ」
渋々言った月乃を見て、二人は月乃から離れる。
「 …ったく、お前らは——」
不満ありげな表情で、二人を睨む。二人はそんな月乃から視線を反らした。
「——で、何でお前らは殺されそうになったんだ?」
カーペットの上に胡座をかいて、月乃が真白と玲音の二人に訊いた。
「 …あ、オレは違うっすよ」
否定の意味を込めて、ぱたぱたと手を振る玲音。
「あ? なら、誰が?」
怪訝に思う月乃に、真白が簡潔に説明する。
「わたしが街を歩いてたら、一人の少年が追われてまして。なぜか巻き込まれて、殺されそうに」
「へーぇ。じゃあ、その少年とやらをぶっ殺すか」
真面目な表情をしてとんでもないことを言った月乃の腕を、玲音がガッシリと掴んだ。
「月チャン… ?」
玲音の笑顔から、殺気が漂っている。
「ごめんなさい、本気〔マジ〕でごめんなさい」
謝る月乃を見て、玲音が手を放す。
「解れば良いの、解れば」
「 …で、その追っ手は?」
「牢屋に入ってる、と思います」
真白が「と思います」と付け足したのは、確実ではないからだ。風太郎に預けて、それからどうなったのかは知らない。
「なら、そいつに話をしに行くか」
「殺さないでくださいね」
釘を刺す真白に、月乃が半眼になった。
「大丈夫だよ」
「なら、良いです」
月乃はそのまま部屋から出ていく。部屋に残されたのは、真白と玲音の二人。
「 …じゃあ、わたしは自分の部屋に戻るから」
(こんな男と二人っきりとか、あり得ない)
そう思って、真白はさっさとその場から去っていった。
広い部屋に一人残された玲音は小さく呟いて、笑った。
「真白チャン、イジワルなんだから——」