複雑・ファジー小説
- Re: 本当のわたし ( No.20 )
- 日時: 2012/06/30 16:58
- 名前: 羽月リリ ◆PaaSYgVvtw (ID: nOUiEPDW)
- 参照: サブタイトル考えるのをやめよう
No.7
暗い部屋。
聞こえるのは、自分の心臓の音と、静かな声。
「どこに行ったの?」
ガタガタと震える足。
扉が開き、明かりが差し込んでくる。その中で、奇妙に光を反射する——包丁。
「大丈夫よ、すぐに死ぬから」
そう言って、包丁を持った右手を振り上げる。
「きゃあぁぁぁっ !! 」
◇◆◇
「きゃあぁぁぁっ !! 」
はっと目を開ける。それと同時に、ガバリと半身を起こした。
(気持ち悪い… )
心臓がバクバクいっている。それに、呼吸が荒い。全身に汗をかいている。
「 …夢——」
小さく呟いた真白は横たわり、大きく深呼吸をした。
それでも心臓はまだ煩いほどに鳴っている。
「 …——」
真白は半身を起こし、そのままベッドから抜け出した。
ベッドの側に置いてあったスリッパを履き、部屋を出る。
静かな廊下を歩いて、トイレへ行く。
トイレのドアを開けると、自動で電気がついた。
真白は洗面所で顔を洗った。
「なんで… 、あんな夢——っ」
吐き捨てるように言い、大きな鏡に写った自分の姿を見る。
「 …… ふ」
俯いた真白の頬に、一筋の涙が滑り落ちた。
「真白チャン、おはよー」
「おはようございます… 」
挨拶をしてきた玲音に返事をして、席につく。
「朝御飯ですよ」
風太郎がいつものように笑顔を見せて、朝御飯を運んでくれる。
本日の朝御飯は、クロワッサンとスクランブルエッグ、ベーコン、サラダ、そしてコーヒーだ。
「どうぞお召し上がりください」
ニコニコと笑顔を絶やさない風太郎を半眼で見て、真白は朝御飯を食べ始める。
「いやー、風チャンが作るのは旨いねー」
玲音が言うと、風太郎は「そんなことないですよ」とニッコリ笑う。
「 …——」
「真白チャン、どうしたの? 何かあった?」
ずっと黙っている真白を見て、玲音が訊いてくる。
「 …あ、何でもないですよ」
笑いながら答えたが、それが引き攣っていたらしい。
「でも、元気なさそう」
「 …気のせいです」
そう言うと、玲音は口許に笑みを浮かべた。
「抱き締めてあげようか」
「……………は?」
「そしたら、オレのかっこよさにメロメロで元気出る——」
「ごちそうさまでした!」
玲音の言葉を遮って言った真白は、そのまま部屋を出ていった。
その様子を見ていた風太郎はクスリと笑った。
「玲音さん、そんなんだったら嫌われますよ?」
「 …あー、それなら既に嫌われてるから大丈夫っす」
それは大丈夫なのだろうかという風太郎の心配をよそに、玲音は言った。
「それに、オレは真白チャンのこと、好きだから」
「 …… そう簡単に『好き』とか言うから嫌われるんですよ」
苦笑混じりに風太郎が言った。
「確か、赤井龍生が通ってるのは聖陽学園よね」
「ねぇ、久遠さん」
「なら、そこに行けば会えるわよね… 」
「久遠さん… ?」
「あー、でも、どうすれば良いかしら」
「久遠さん!」
「はいっ !? 」
必死に考えているところに急に話しかけられたので、真白は思わず大声を出してしまった。
「大丈夫? なんか独り言喋ってたけど——」
見ると、同じクラスの女子生徒が心配そうな表情をしていた。名前は確か、中村美玲。
「あー、うん、大丈夫」
笑顔を浮かべてそう言いながら、内心では焦っていた。
(話、聴かれてた !? )
ここは真白が通う中学校の教室の中なのだ。そんな中で独り言をぶつぶつと言う自分は一体。
「で、何の用?」
笑いを浮かべながら訊くと、美玲はにっこりと笑った。
「特に用はないんだけど、なんか元気がなさそうだったから、心配で——」
「 …あぁ、そう」
(そうかしら?)
そう思いながらも、表面上は笑顔で取り繕う。
「頑張ってね、仕事」
「え… 、えぇ——」
美玲はそれだけ言うと、去っていってしまった。
(何だったのかしら?)
しかし、その数秒後には再び仕事のことを考え始める。
(取り敢えずは見ておくだけかしら… ?)
うん、そうしよう。下手に話しかけてまた何かに巻き込まれるのも散々だ。
そうと決まれば、あとはつまらない授業が終わるのを待つだけだった。