複雑・ファジー小説

Re: 本当のわたし ( No.23 )
日時: 2012/06/30 17:10
名前: 羽月リリ ◆PaaSYgVvtw (ID: jADmD8Xa)
参照: 今回、更新遅かったのはボスの名前が決まらなかったから。

No.9◇名前

 秘密組織の建物に戻った真白は、すぐさまボスの部屋へと向かった。
 扉を開けると、広い部屋の奥にボスと呼ばれる青年がイスに座って、その横に風太郎が立っていた。
「さぁ、今日のおやつはアップルパイですよ。青〔じょう〕様」
 青と呼ばれた青年は、少々不機嫌に言った。
「その名前で呼ぶな。ボスと呼べ」
 それを聞いていた真白は、あぁ、そういえば、この人は青という名前だったな、と思った。「青」と書いて、「じょう」と読む。変わった名前だ。
「はい、そうですね。青様」
 風太郎はいつものように、にっこりと笑って言う。
「だからな」
 青は風太郎を睨むが、彼は全く気にしていない。
「名前っていうのは、大切ですよ」
 ニッコリと笑ってそう言ったあと、風太郎は部屋を出ていく。
「地下牢へ行ってきますねー!」
 パタパタと手を振っていたが、扉が閉じ、見えなくなった。
「 …全く、あいつは——」
 ぶつぶつと呟く青は、やはり機嫌が悪そうだが、真白は気にせずに言った。
「あの、赤井龍生のことなんですけど… 」
 そう切り出すと、しかし青は片手を挙げた。
「真白、僕は今、食事中だ。あとにしてくれないか?」
「無理です」
 冷たい笑顔を浮かべて即答し、真白は話を始めた。
「あの追っ手の仲間にさっき出会いました」
「 …紅茶、おかわり」
 ついと空になったカップを真白の前に差し出す。
「やはり、赤井龍生を殺そうとしていたようです」
「 …紅茶——」
 差し出してくるカップを手に取った真白は、さらに続けた。
「追っ手の仲間はチカラを使えました」
「紅茶——」
 青がじとっとこちらを睨むが、真白は構わずに続ける。
「おそらく、あの追っ手もチカラが使えるかと」
「 ……… 」
「どうしますか?」
 先程よりも不機嫌そうな表情でこちらを睨んでくる。しかし、そこには光がある。光がないと、怖いのだ。身体が震えるほどに。
「赤井龍生をここへ連れてこい」
 少し考えたあとに青が言った。
「手荒な真似はしてほしくないが… 、まぁ、多少は良いだろう」
 アップルパイにフォークを突き刺しながら青が指示をする。
「玲音を連れていけ」
「嫌です!」
 あの人は無理だ。嫌いだ。大嫌いだ。
「良いから。玲音には僕から言っておくから」
 アップルパイを口に入れた青は、にっこりと笑った。
「……………はい」
 不満げに真白が返事をする。
「明日、必ずここに、赤井龍生を」
 フォークを何もない空間に指して、青が言った。



「風太郎さん、ちょっと、その人と話があるんだけど——」
 地下牢へやって来た真白は、イスに座っている風太郎にそう言った。
「良いですよ」
 ニッコリと笑って頷いたあと、風太郎は思い出したように言った。
「あ、太郎さんにしましたよ」
「……………は?」
「だから、追っ手の名前! 何もないと、呼ぶのに困るから… 」
 真白は半眼になって追っ手——否、太郎さんを見た。
「太郎さん——」
 口に出すと、太郎は何とも微妙な表情をした。と言っても、長い前髪が目を隠していて、どんな表情をしているのか、いまいちわからない。
「まぁ、良いですけど。 …じゃ、その… 太郎さん?」
 名前を呼ぶと、太郎はやはり微妙な表情をして、こちらを見た。
「 …今日、あなたの仲間に会いました」
「誰だ?」
 すぐさま太郎が訊いてくる。
「あー… と、ルーテア・カルツって子です」
 記憶を手繰り寄せながら答えると、太郎は「はぁ」と溜め息をついた。
「ルーテアか… 、何か言ってたか?」
「あー …… 、——太郎さんのこと、探してましたよ」
 そう言うと、太郎は盛大に溜め息をついた。
「そうか、ルーテアが、探してたか」
 遠い目をして太郎が言う。
「 …どういう関係なんですか?」
 そう訊くと、太郎はパカッと口を開いた。
「それは……………、色々と」
 『色々と』とは一体何なのだろうと思いながら、真白は違うことを口にする。
「仲間のことを話したら、饒舌になるんですね」
「……………え?」
「ホームシックってやつですか?」
「そんなんじゃねぇ!」
 太郎は些か不機嫌になってしまった。
「まぁ、そのうち出られますよ、そこ」
 「そこ」とは牢屋だ。いつになるかは分からないが、いつまでもここに置いておくのもどうかと思う。また今度、青に訊いてみよう。
「それでは、お休みなさい。 …太郎さん」
 新しくつけられた名前を最後に言うと、太郎はやはり微妙な表情をして、こちらを見てきた。