複雑・ファジー小説

Re: 本当のわたし◇No.10 ( No.26 )
日時: 2012/06/30 17:12
名前: 羽月リリ ◆PaaSYgVvtw (ID: Pc.bKmsa)
参照: 今更だけど、永久真白と白銀玲音、二人とも「白」が入ってるね。

No.10◇拉致

 翌日。
「 …で、玲音さんと一緒かぁ——」
 リムジンに乗った真白は不満たっぷりで呟く。
「オレは真白チャンと一緒で嬉しいよ」
 対しての玲音は本当に嬉しそうににこにこと笑っている。
「で、その赤井龍生ってのは、どんな子なの?」
 興味津々といった体で玲音が訊いてくる。
「え? あー、何と言うか… 」
 真白は赤井龍生の姿を思い浮かべる。
「赤髪で、背が高くて、バカそうで… いや、実際バカで——」
「どうしてバカなの?」
 言葉を遮って言ってきた玲音の問いに、真白は渋面を作って答える。
「久遠純歌のこと、知りませんでした」
「 ……… そんなこと」
「『そんなこと』じゃないです!」
 大声を出す真白を見て、玲音は苦笑いする。
「まぁまぁ、落ち着いて——」
「落ち着けません! このわたしのことを知らないなんて …!」
 そんな話をしている間にリムジンは聖陽学園へ着いてしまった。
 リムジンを下りると、玲音が訊いた。
「どうやって赤井龍生を連れてくの?」
 すると、真白は変装用のだて眼鏡とキャップをして答えた。
「赤井龍生が出てきたところを拉致する!」
「……………」
 玲音は苦笑いをした。
「あ! 出てきたわよ!」
 真白のその言葉で、玲音は校門の方を見た。
 背が高い、赤髪の男子生徒が、こちらに向かって歩いてくる。隣には、茶髪の女子生徒と黒髪の男子生徒。
「おー、あの子が。結構イケメン——」
「どうでも良いから、早く来て!」
 そう言うと、真白は赤井龍生の行く手を遮るようにして仁王立ちした。
「赤井龍生!」
「ま… 真白チャン——」
 玲音が後ろから遠慮がちに声をかけてくる。しかし、真白には届かない。
「ちょっと来てくださる?」
「……………はぁ?」
 突然現れた少女を、赤井龍生は呆然と見る。
「龍生くんって、友達多いんだねー」
「これは友達ではないだろう」
 茶髪の女子生徒と黒髪の男子生徒が後ろで話している。それに構わず、真白は言った。
「まぁ、貴方に拒否権は無いわ!」
「真白チャン——」
 玲音が後ろで呆れ顔をする。
「とっととあれに乗って !!」
 真白はビシッとリムジンを指差した。
「はぁ !? あれに乗んの?」
 リムジンを見て、赤井龍生は驚いているようだ。
「わー、リムジンだー! すごーい!」
「うっわ、まじかよ。本物かよ」
「良いなー。わたしも乗りたーい!」
 やはり後ろで茶髪の女子生徒と黒髪の男子生徒が話している。
「ほら! 早く乗って !!」
 なかなか動こうとしない赤井龍生の手を握って、真白はリムジンへと向かう。
「 …は、何、手、繋いでんだよ」
 引っ張られるようにして歩く赤井龍生は明らかに動揺している。それに、顔も赤くしている。それを見た真白は鼻で笑った。
「あなた、おとといはそっちから手を繋いできたくせに」
「あれは——、腕だったよ!」
「あんま変わらないわよ!」
 そう言いながら、赤井龍生を無理矢理にリムジンに押し込み、真白もそこに乗り込む。
「玲音? 早く乗って!」
「あ、はーい」
 玲音は急いでリムジンに乗り込む。
「じゃ、行って良いわよ」
 真白の声を聞いた運転手は、車を走らせる。
「……………あの、いまいち状況が分からないんですけど」
 遠慮がちに言う赤井龍生を一瞥して、真白は言った。
「そのうちわかるわよ」
「……………そう」
 赤井龍生が半眼になったが、真白は気にせずに、だて眼鏡とキャップを外した。
 その様子を見ていた赤井龍生は口を開いた。
「お前——」
「 …?」
(もしかして、気付いた… !?)
 心の中でそう思った真白だが、赤井龍生は全く違うことを口にした。
「お前、名前、何だっけ?」
「——… 」
 真白は脱力した。
 まさか、久遠純歌を知らない上に、名前を忘れるとは。
「 …良い度胸してるじゃない」
 「ははははは」と力なく笑う真白を見て、玲音は思った。
(相当怒ってるな、これは)
 どうしようか迷った末、赤井龍生に助け船を出すことにした。
「それより、赤井龍生くん」
「 …はい?」
 名前を呼ばれた赤井龍生は玲音をまっすぐに見てくる。
 その顔をよく見た玲音はぽつりと呟いた。
「 …やっぱり、かっこいいね」
「はぁ !?」
 赤井龍生は目を見張った。
「何だよ、お前。ホモか !?」
「玲音さん、そっちの人だったんですか !?」
 真白まで訊いてくる。
「違うよ! だって、普通にイケメンじゃない?」
 名前を覚えてもらえない真白は即答した。
「そんなことないです!」
「いや、絶対イケメンだって!」
「全然です! こんな人、たくさんいます!」
「こんな人って、失礼だな!」
 ぎゃあぎゃあと騒ぐ三人を乗せたリムジンは秘密組織の建物へと向かう。



「——っはぁー。何だよ、ここ」
 秘密組織の建物の中を歩いている赤井龍生は辺りを見回しながら、呆然と呟いた。
「オレらの秘密基地、的な」
 隣を歩いている玲音が教える。
「 …てか、あなたたちはどういう関係何ですか?」
「 …へ?」
 赤井龍生は真白と玲音を交互に見る。
「付き合ってるんですか?」
 赤井龍生のその言葉に、真白は全力で否定した。
「違う違う違う! この人は、ただの上司って言うか、何て言うか——、取り敢えず、付き合ってはない !!」
「そんなに全力で否定されると、オレ泣いちゃうよ?」
「結構です!」
 そんな二人のやり取りを見た赤井龍生は小さく笑った。
「今、笑ったね」
 玲音が指摘すると、しかし赤井龍生は首を横に振った。
「 …いえ」
 そう言っているが、肩が震えている。
「何がそんなに面白いの?」
「 …二人の会話が——」
 笑いを堪えながら赤井龍生が答える。
「仲良いんすね」
「仲良くない!」
 きっぱりと否定した真白に、玲音は素早く反応する。
「酷い!」
「酷くないです!」
「いや、酷い! 絶対酷い!」
 赤井龍生は笑いが堪えられなくなり、「わはははは」と笑い出す。
「そんなに笑わないでよ!」
「だって——」
『楽しそうだな』
 突然聞こえた、低い声。
「あ、ボスの声だー」
 玲音がキョロキョロと辺りを見回す。そして、監視カメラを見つけ、それに向かって手を振った。
「やっほー、ボスー!」
『どうでも良いから、とっととそいつを連れてこい』
「スピーカーか… 」
 ぼんやりと呟く赤井龍生を真白はボスの元まで連れていった。