複雑・ファジー小説
- Re: 本当のわたし◇No.13 ( No.30 )
- 日時: 2012/07/06 16:28
- 名前: 羽月リリ ◆PaaSYgVvtw (ID: AzXYRK4N)
- 参照: テストは月曜までですが、久々の更新。
No.13◇年下のボス
「月乃!」
名前を呼ばれた月乃は、しかし何の反応も示さずに歩き続ける。
「おい、月乃」
再び名前を呼ばれる。半分、苛立ったような声で。
「聞こえてるだろ」
肩に手を置かれた。
「…年上を呼び捨てすな。あと、敬語を使え」
自分よりも若いボスにさらりと言うと、彼は無言になった。
「…じゃあ」
自分の部屋に入ろうとした月乃は、そのボスに呼び止められた。
「——ちょっと待て」
しかし、月乃は部屋へ入り、ドアを閉めた。
「おい、開けろって」
ガチャガチャとドアノブを回すが、月乃が内側から鍵をかけたので開くことはない。彼は苛立ったようにドンドンとドアを叩いた。
「月乃! 開けろ!」
月乃のドアに凭れて腕組みをし、それを黙って聞いている。
「開けろって!」
ドンドンとドアを叩き続ける。
「月乃!」
それでも月乃はドアを開けない。
「月乃、——月乃…さん」
ドアを叩くのを止めて、実に不満たらたらな小さな声でそう言ってきた。
「何の用だ?」
ようやく月乃が返事をした。
「話がある。開けてくれ」
「…『開けてくれ』?」
言葉を鸚鵡返しに言うと、不満たっぷりな声で言ってきた。
「——開けてください!」
面白いなぁ、と苦笑しながら月乃は鍵を開け、ドアを開いた。
「…何の用だ? 青」
口元に笑みを浮かべて訊くと、青はやはり不満気な表情をして言った。
「さっき、赤井龍生と遣り合ってたな」
「…あぁ」
遣り合うという表現が正しいのかは微妙だが、月乃は頷いた。
「赤井龍生は、お前の攻撃を全て躱したな」
「…鳩尾に一発、決めてやったけどな」
月乃の言葉は無視して青は続けた。
「僕は、お前の剣術の腕前はよく知っている」
「…そうか?」
冗談半分で訊くと、「そうだ」と半眼で返してきた。
「そのお前の刀を避けるとは、赤井龍生はただ者ではないと思う」
至って真剣な眼差しの青に、月乃は苦笑いした。
「私はそこまで凄い奴ではないよ」
すると、青は静かに首を振った。
「お前は凄いよ。…少なくとも、僕には勝てる相手ではない」
「だったら、私を『お前』呼ばわりすな。で、敬語を使え」
「何度もそう言っているのに」とぼやくと青は渋面を作った。
「とにかく、赤井龍生についてだが——」
「話を逸らしたな」
月乃の指摘に、青は更に渋面を作って続けた。
「僕は、やはり赤井龍生が必要だと思う。今の、この秘密組織には——」
思慮深げな瞳で青を見詰めたあと、月乃は彼の頭をくしゃりと撫でた。
「そうだな」
「…あのな、子供扱いをするな」
頭を撫でている手をパシリと払って、月乃の顔を見ると、彼女は静かに微笑んでいた。
「私に出来ることがあるならば、力を貸すよ」
月乃はそれだけ言うと、部屋へと入った。
閉じたドアを見詰めた青が小さく呟いた言葉は、彼女に届いたのか——。