複雑・ファジー小説
- Re: 本当のわたし ( No.32 )
- 日時: 2012/07/11 20:41
- 名前: 羽月リリ ◆PaaSYgVvtw (ID: KTH/C8PK)
- 参照: 数学のテスト、8点でした。えぇ、100点満点ですけど、何か?
No.14◇奇襲
翌日。
その日の朝は、いつもと何一つ変わりのない朝だった。
風太郎が朝早くに起き、掃除をしていると、玲音が目覚め、みんなが集まる部屋へとやって来る。
風太郎と玲音が雑談をしていると、次にパジャマを着たままの真白が部屋へやって来る。それを合図に、風太郎は朝食の準備に取りかかる。
真白は新聞を開き、玲音はテレビでニュースを見ている。
暫くすると、美味しそうな香りが辺りに漂い、朝食が始められる。
風太郎の作った料理をゆっくりと堪能する真白と玲音。それを見た風太郎は、嬉しそうににっこりと笑う。
朝食を食べ終わった真白は服を着替えに自分の部屋へ戻り、玲音は歯磨きをしに行く。風太郎は二人が使っていた食器の後片付けをする。
風太郎が食器を洗い終わると、制服に身をつつんだ真白と歯磨きを終えた玲音がほぼ同時に戻ってくる。
学校まで少し時間がある真白と、家事に一段落がついた風太郎と、暇な玲音は、ソファに腰をかけると、雑談を始める。
そこまでは何一つ変わらなかった。
「…じゃあ、そろそろ学校に——」
時間を確認した真白が立ち上がるのと、ほぼ同時。
ドォンと、何かの爆発音のようなものがどこからか聞こえた。
「何——?」
「…爆発?」
すると、再び爆発音が聞こえてきた。
聞こえてくるのは、階下のほうだ。
「少し様子を見てきます」
一番速く動ける風太郎はそう言うなり姿を消した。
「…一体、何が——」
真白が訝しげに呟くと、玲音は呑気ににっこりと笑った。
「大丈夫。真白チャンはオレが守るから安心して——」
「………」
呆れ半分で玲音を睨むと、三度爆発音がした。
「…わたし、ちょっと見てきますね」
戦力である自分がいた方が良いかもしれないと考えた真白は爆発音が聞こえてくる方へと向かう。
「オレも行くよ」
真白の後ろを歩きながら玲音は言った。
「お姫様を守る騎士〔ナイト〕だしね」
「はぁ」と溜め息をついて、エレベーターへ乗り込む。
真白は一階のボタンを押す。
落ちるような、独特の感覚がしたあと、ポーンと音がしてドアが開く。
すると、そこは。
「…うっわ、酷い」
このビルの入り口の扉があったはずの場所は、爆発が起きたかのような状態で、そこが入り口だとは到底思えなかった。
「何が——?」
呆然と呟いた真白は、しかし風太郎の姿が見えないことに気付き、B1のボタンを押した。
再びエレベーターのドアが閉まり、落ちる感覚のあと、ドアが開く。
「…わ——」
エレベーターのすぐ前に、青と風太郎がこちらに背を向けて立っていた。そして、その奥にあったはずの牢屋はボロボロになっていたが、鉄格子はついたままで、中にいる太郎は唖然としていた。
牢屋の向かい側には、二人の姿。
少年と少女のようで、少年は少女よりも頭一つ分ほど背が高い。
少年は、肩につくかつかないかの黒髪で、黒のスーツのようなものを着ている。
「……あ! あの子、一昨日の——!」
真白が指差す先にいるのは、ひとりの少女。
金色に近い茶髪を腰のあたりまで伸ばしていて、黒色のワンピースを着た少女。瞳は、静かな紫色をしている。
「ルーテア・カルツ!」
名前を大声で言うと、彼女は目を見張った。
「あなた誰よ! ——って言うか、なぜあたしの名前を知ってるの!?」
そう言われて、真白は気が付いた。あのときは、隠れて見ていたんだっけ。
しかし、真白は口許に笑みを浮かべて言った。
「わたしに知らないことなんてないのよ!」
「なんですってぇ!?」
少女二人を交互に見詰めた玲音はぼんやりと口を開いた。
「真白チャン、あの子のこと知ってるの?」
「む、本当か、真白」
玲音の言葉に青が反応する。
「えぇ! 知ってます!」
真白は捲し立てるように言った。
「赤井龍生を襲おうとしたけど何か失敗したっぽい感じの、金色オッドアイゴスロリ少女です!!」
「………何か凄いね」
玲音がポカンと口を開け、風太郎はいつものようにニコニコと笑う。
「なら、その金色オッドアイゴスロリ少女!」
真白の言った通りに言った青がその少女を睨むと、少女は怒ったように金切り声をあげた。
「あたしの名前は、ルーテア・カルツよ!」
ギッと青を睨み返す金色オッドアイゴスロリ少女——ルーテア・カルツ。
「……ルー、少し黙れ」
それまでずっと黙って彼女の横に立っていた少年がようやく発した声は、少し呆れた感じのものだった。
「あたしの名前はルーテアよ」
頭一つ分ほど背の高い少年を一瞥したルーテアは、腕組みをしてこちらを睨む。
一方の少年は、無表情にこちらを見てきた。
「さっさと蒼を返せ」
「アオイって、誰?」
真白の言葉に、その少年はついと指差した。
「そいつだ」
その先にいるのは。
「太郎さん!」
真白は目を見開いた。
「太郎さんって、アオイって名前だったんですか!」
「タロウ? アオイ?」
胡乱気に呟いた玲音は、じっと牢屋に閉じ込められている者を見詰めた。
そんな玲音は気にも留めずに青は言った。
「そう簡単にこいつを返すと思うか!」
「思う!」
少年の言葉に青はずっこけた。
「思うのかよ!」
ムスッとして少年を睨む青。
(けど、青さんとあの人、同じくらいの年かも…)
ぼんやりと考える真白。
「交換条件だ! お前たちは何故、赤井龍生を狙っている!?」
張り上げた青の声に、少年は静かに答える。
「そんなことは教えられない…」
少年はすっと右手を太郎がいる牢屋に向けて差し出した。
「…壊せ」
「玲音——」
青の言葉と同時に、少年の差し出された右手から白い閃光が解き放たれた。
ドォンと、あの爆発音が響く。
「———っ…!」
真白は咄嗟に顔を両手で覆った。その直後、爆風が叩き付けられる。
なんとか堪えて目を開けると、牢屋の前には白銀に光る大きな壁が創られていた。
「…玲音さん——」
「——な…っ」
少年はその壁を見て、目を見張った。
「オレのこと嘗めないでよね」
玲音を口端を吊り上げた。
「このDefendist〔護る者〕をな!」
