複雑・ファジー小説
- Re: 本当のわたし ( No.39 )
- 日時: 2012/07/22 10:29
- 名前: 羽月リリ ◆PaaSYgVvtw (ID: AUaokgCu)
- 参照: 夏休みだー。
No.20◇捕獲
特別に設置された小さなステージに、ピンクの衣装に身を包んだ上々が一人立っている。
「みんな、今日は久遠純歌のミニライブに来てくれてありがとう☆」
バチっとウインクをすると、そこに集まった三百人の中から歓声が上がる。
「じゃ、早速新曲歌っちゃうよ! ミュージックスタート!!」
それを合図に、明るいアップテンポな曲が流れる。
そのとき。
「———!?」
赤髪の少年がいるではないか。その隣には、茶髪の少女と黒髪の少年。
何であいつがここにいんのよ、と思いながらも、歌を笑顔で歌い始める。
赤井龍生を他の人に怪しまれないように自然な感じで見ると、彼は隣の茶髪の少女と何かを話していた。
そうこうしていると、曲は終わっていた。
「じゃあ、またね! バイバーイ!」
ニッコリと笑って観客に手を振り、急いでステージを降りる。そして、楽屋である仮設テントに入る。
「何であいつがここにいんのよ!」
独り言を漏らしながら、真白はスマートフォンを取り出した。
それを操作し、耳に当てる。
コールが三回鳴ると、『もしもし?』と言う声が聞こえた。
「もしもし、風太郎さん!?」
『真白ちゃん? どうしたんですか?』
のんびりと話す風太郎に、真白は早口で話す。
「あっ、赤井龍生が、そこにいるんだけど!」
『赤井龍生? あぁ、赤髪のあの——』
風太郎の言葉を遮り、真白は言う。
「どうすれば良いですか!?」
『…うーん、青様、どうします?』
どうやら近くに青がいるらしく、ゴニョゴニョと何かを言ったあと、風太郎が『合点承知』と言った。
その次の瞬間、真白の目の前に風太郎が現れた。
「………突然現れると驚くんですけど」
真白が半眼になって言うと、しかし風太郎は真白の手を掴んだ。
「はやく行こう! 赤井龍生君を捕まえよう!」
「えぇ!? 私、衣装のままですよ!?」
「なら、着替えて!」
仕方なく風太郎をテントの外へ追い出し、急いで着替える。と言っても、この衣装はもともとコンサート用のもので、着替えが速く出来るように作られているので、そんなに時間はかからない。
私服に着替え、いつものようにだて眼鏡とキャップをして外へ出ると、風太郎に手を引っ張られた。
「赤井龍生君はあそこだよ!」
走りながら風太郎が指差した先はファーストフード店で、そこに赤髪の少年が立っていた。
「赤髪が目立って良いね」
ニコニコと笑いながら赤井龍生に近付く風太郎と真白。
「ねぇ、ちょっと良いかな?」
「………は?」
風太郎がいつものようにニッコリと笑って言うと、赤井龍生はポカンと口を開けた。
「一緒に来てほしいんだ」
そう言うなり、赤井龍生の手を掴んだ風太郎に驚いた赤井龍生は呆気にとられたまま、何の抵抗もしない。
「じゃ、行こう」
ニッコリと風太郎が笑った瞬間、風が吹き、再び目を開けると秘密組織の建物の中にいた。
「……………は? え、何? ここ、どこ?」
慌てたようにキョロキョロと辺りを見回す赤井龍生。
「風太郎! よくやった!」
「青様、もっと誉めてください!」
しかし、青はそれを無視し、赤井龍生の前に立った。
「………あ! お前、この前の——!!」
赤井龍生が青を指差してパクパクと口を開閉させる。
「赤井龍生! お前に有無は言わせない! 我等が秘密組織の一員になってもらうぞ!」
その様子を見た真白は、アニメかマンガに出てくる悪役みたいだな、と思った。
「ふざけんな! 俺はこんなところ、入んねーぞ!」
拳を握り締めて言う赤井龍生を見た青は溜め息をついた。
「風太郎」
「はい?」
「そいつを地下牢へ連れていけ」
「合点承知!」
ビシッと敬礼をする風太郎を見た赤井龍生は目を見開いた。
「はぁ!?」
風太郎は目にも止まらぬ早業で赤井龍生の手を縄で縛っていた。
「あぁ!? お前、何やってんだよ!」
暴れようとする赤井龍生だが、風太郎がきつく縄で縛っているので、どうすることも出来ない。
「はーなーせーっ!!」
騒ぐ赤井龍生だが、風太郎が引っ張っていくので、引きずられるようにしてその部屋を出ていった。
「………青さん、少し強引過ぎませんか?」
名前も覚えてくれるばかであほで嫌な奴だが、流石に少し可哀想だと思う。同情ってやつか。
「…良いんだ。これで、良いんだ」
小さく言ったそれは、まるで青が自分に言い聞かせるように言っているように思えた。