複雑・ファジー小説

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.103 )
日時: 2012/08/29 22:08
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)


+参照800+


「ねーちゃん、とりだ」

青空を裂くように羽ばたく鳥を俺は見上げる。側に立っていたワンピースの似合わないねーちゃんが、俺の頭を撫でる。
お母さんとお父さんは、居ない。内緒で出てきた。
パンを持ち出して、小さな冒険の気分だった。俺が勇者で、そうだな、ねーちゃんは魔法使いってところか。

「こどく、鳥はどうしてとんでいるんだとおもう?」

それで2人で冒険に行くんだ。でも、それなら俺は魔王は倒しに行かない。ねーちゃんとのんびり弱いモンスターを倒して過ごすの。
飽きそうだから、もう1人欲しいな。弓使いとか。

「うーうん、わからなーい」

そんなことを考えるなんて、ねーちゃんは変な人だな。
綺麗な黒髪を、風が攫って行く。俺の髪は少し茶色いから、少しだけねーちゃんが羨ましい。いつか俺も、綺麗な黒色の髪になるかな。

「それはね、ふまれないためだよ」

「ふまれない?」

そっと右足を上げると、潰れた蟻がまだ足を動かしていた。ずらすこともなく、もう一度蟻の上に足を置く。
空を見上げると、もう鳥は居なかった。ねーちゃんはそれでも空を見上げていた。

「そう。ふまれて、しなないため」

そうか。そうだったんだ。俺は、鳥はただ空が好きだからだと思っていた。俺とねーちゃん、そしてお母さんやお父さんは、空を見ていたいから、ここに居るんだとそう思っていた。
俺が空をじっと見ていると、病院の屋上のフェンスを上っている人がいた。

「あのひとは?」

ねーちゃんも、その人を見る。
屋上のギリギリまで来て、空を見上げている。

「あの人は、そらになりたいんだよ」

そういって、ねーちゃんは来た道を振り返る。俺もねーちゃんに急かされて、振り返る。
ちらっと映った病院の屋上からは、人が落ちていっていた。

「そらに? あのひとは、ばかなの? そらはうえにあるのに」

ねーちゃんは振り返らなかった。ねーちゃんはいつもそう。
ねーちゃんはいつだって、素敵で、強くて、綺麗で。良いよね、ねーちゃん。
俺も、ねーちゃんみたいに物知りになりたい。

「そうだね。あれじゃあつぶれて、じめんになっちゃう」

本当に、バカばかり。
そんなことを呟いたねーちゃんは、やっぱりカッコよくて、やっぱり頼りになる。
俺は急いでねーちゃんの後を追う。

ちゃらーん!孤独はレベルアップ—!


+おわり+