複雑・ファジー小説

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.112 )
日時: 2012/08/20 13:04
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)



+75+


這ってバッグに手を伸ばして、着信音を叫び続けている携帯を取り出した。非通知。私は何となく、それに応えた。
多分、淋しかったんだと思う。常識人の店長があんなになっちゃって、孤独が変わって。
誰でも良いから、私とつながってくれる人を探していたんだろう。

「……もしもし」

『桐?』

前にもこんなことがあった。前に電話を掛けてきたときに、電話帳に登録しておけば良かった。
私は以前の事を思い出しながら、唇を噛み締めた。
あの時はまだ、ズルズルでガタガタ。私たちの関係が崩れないで、ただその状況を幸せだと、平凡だと錯覚していた時。この前の電話が、今私と孤独の関係を壊している。

「……卓巳」

大丈夫、なんて言葉は、少しも思いつかなかった。声だけで、彼だと分かる。卓巳への盲目的な愛は、すっかり私に染み付いてしまっているんだ。
私の苗字を呼ぶその声が、なんだか懐かしくて、優しくて。孤独が卓巳みたいなんて思っていたのに、今の孤独と今の卓巳は全く違うのだと、確信した。
変なの。孤独の次に、卓巳も変わってしまうんだね。
変わっていないのは、私だけ。

『大丈夫?』