複雑・ファジー小説
- Re: コドクビワ、キミイゾン。【完結】 ( No.140 )
- 日時: 2012/11/09 22:38
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=13575
+参照1300+
どうやら、あのお客は女が苦手らしい。
そんな話をされて、ボクが相手をすることになったのだ。ボクは別に、何でも良かった。
愛想を振りまくのは好きじゃない。でも、ボクにだけ懐くとか。そんな感覚っていうか、そんな独占感を持てるのは結構好きで、快感だから。例えば、このお客がボクにだけ心を開いたとしたら、面白いよなぁ。なんて思ったりしてさ。
それで、何も考えずに、その男の相手をすることになった。ちなみに、それを報告してきた女の同僚は、下心が見え見えだった。ボクへの。後で、相手でもしてやろうかな。なんか面白そうだし。
ボクは営業スマイルを貼り付けて、客の髪を切り始めた。
そいつの髪は、うじうじじめじめして居る態度とは似合わない派手な金髪だった。髪は痛んでいる。プリンになって居ないところから見ると、染めてまだ日が浅いみたいだ。
あらかた、自分を変えたくてとかそういう理由かもしれない。
コイツはすごく背が高かった。だからただ立って居るだけでも目立つのに、金髪。そして中身はこんなにうじうじじめじめ。顔は整っているのに、なんだかもったいない男だ。いろいろと。
ふと気になったのが、右耳のピアスだ。左耳にはちゃんとついているピアスは、なんと右耳にはついていない。
そして、それに加えて何かを引きちぎった跡がある。傷は塞がっていないし、血も乾ききっていない。つまり、遅くても今日の昼ごろ。その頃についた傷だ。
ピアスの穴があったであろう位置から、下へ。
そう、それは、まるで、ピアスを掴んで、下に引き裂いたかのような。なんで、こんなことを。
まぁ、なんてそんな事が聞けるはずもなく、僕は仕事をこなしていった。
分かったこと、それは。
コイツが、記憶喪失だって事。
それで一気に興味が失せた。何だ、それなら仕方ないか。じゃあ、記憶を失う前はきっと、堂々とした性格だったのだろうな。
同情するような表情を作るのは久しぶりで、ちょっと下手になってしまったかもしれない。
コイツは単純だから、信じていたみたいだった。
その客が帰っていき、僕はようやく一息をついた。
何だかコロコロ表情を作らなくちゃいけなくて疲れた。
ボクはそっとトイレに入って、ポケットに入っていた携帯を取り出す。
何より、だ。何よりアイツの一番気に入らなかったところ。
それは。
「『僕』ねぇ」
ボクは、ボクなのにさ。
なんだよ、アレ。しっかりと自分を支えている感じ。気に入らない。あういう奴見ていると、嫌で嫌で仕方がないんだ。
ボクの脆さを、直視しなくちゃいけないような気がして。
「あー。もしもし、築?」
なんだかイライラする。こんなのは久しぶりだ。むかむかする。
ボクらしくない。こんなので、こんなにイライラするなんて。
ボクはもっと余裕ぶってないと。それで、余裕のない奴らを、追い込んでやるんだ。
そうだろ。
「なんかさー、今日すっごい可愛がりたい気分だから、楽しみにしててね?」
首輪で自我を抑えながら、待っていてよ。
ボクが満足するまで、耐えてくれよ。
+おわり+
URlのついそうの卓巳目線で。
彼は相当イライラしてたみたいです。
『可愛がる』の詳細はご想像にお任せします。
時間的には、築が桐の代わりになってしばらくたったあたりです。
つまり孤独が桐を手に入れて一番幸せを感じている頃ですね。