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複雑・ファジー小説
- Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.16 )
- 日時: 2012/06/10 13:24
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)
+11+
風呂から出て、私が作ってあげたご飯をむさぼる孤独を眺める。孤独は私に見つめられているのを、少し気にしながら、箸を動かしていた。
「孤独、」
私が明日休みだということを言おうと、口を開いた時、テーブルの端に置いてあった私の携帯が鳴った。孤独は私の言葉を遮った携帯を、不機嫌そうに睨み付ける。
休みなんて話、いつでもできるから、携帯を開いて通話ボタンを押した。
「もしもし」
そう言っても向こう側から何も聞こえない。不思議に思ったが、気配はするので、切らないで置くと、携帯の奥から弱弱しい声が聞こえた。
『桐』
携帯を落としそうになった。声で誰か分かったからだ。その声は泣きそうで、壊れそうなほど、脆いもの。
呼吸が一瞬乱れる。この人のアドレスは、ずっと前に消した。ずっと、前。
「っ、卓巳」
卓。
涙が溢れそうになる。心臓がうるさい。昔の記憶がよみがえってくる。
卓。卓。
『……元気?』
口元を手で覆う。なんなんだ、コレ。こうしないと、生きていけないような気がする。周りが真っ暗になって、手の中の携帯だけが、確かなものに見える。
「卓巳、」
情けないくらいに、声が震えて。ついには涙が溢れる。
もう忘れたつもりだった。つもりだけだった。心の奥底に、卓は居たんだ。もう消えないくらい、濃い色で私の心を染めていたんだ。
『ねぇ、桐。明日、会えるかな?』
卓の温もりを感じていたくて、私はただ必死に頷いた。
だから、孤独なんて見えていなかった。
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