複雑・ファジー小説

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.17 )
日時: 2012/06/10 20:20
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)



+12+


「桐なら、休みだよ」

眼鏡が似合う店長の言葉を、信じたくなかった。
いつもなら、レジで不機嫌そうに立っている先輩が見えなかったから、辺りを見回したり、ロッカールームを覗いたみたりしていたら、店長が笑いながら声をかけてきたのだ。

え。先輩が、休み? なんで? 確かに昨日はちょっと様子が変だった。電話の後は、なんだかボーっとしていたし。心配だったから、理由を聞こうと思ったけど、やっと喋ったと思ったら、
「帰って」
だし。
もちろん抵抗したけど、舌打ちされて睨まれた。怖かったし、これでもしもこれから家に入れてくれなかったり、先輩に嫌われたりしたら嫌だったから、渋々先輩と別れた。

何か、あったのかな。

「店長、俺用事あるんで帰りますわ」

とにかく先輩に会いたくて、顔が見たくて、出口に向かう俺の服を店長が後ろから引っ張った。

「どんな?」

振り返ると、店長がニコニコしながら『帰るなよ』と圧力をかけてきた。
うわ。先輩といい、店長といい、大人って怖ぇー。俺ずっと高校生で居たい。

「別に恋はしてもいいけど、仕事を怠るのは良くないな」

恋、だよな。一方的な片思いだよな。そんなことは分かってるんだよ。先輩の眼中に俺は居ないってことなんか、痛いほど知っているんだよ。

唾を飲み込むと、首の歯形が少し痛んだ。