複雑・ファジー小説

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.20 )
日時: 2012/06/13 17:46
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)



+15+


そんなことない。そんなことない。
そんなことない。そんなことない。

そう言いたいのに、喉が詰まる。空気を通すだけの機能しか、喉は果たしてくれない。
そんな私に笑いかける卓の手を、私は握り返してしまう。
あぁ、私は。私は、愚かだ。言いたい事も、言えない。自分のしたいことが分からない。見えない。何も見えない。卓しか見えない。頭の中には卓しか居ない。私の世界には卓しか居ない。

「ボク、彼女と別れんたんだよねー」

声を聞くたびに、鼓動が早くなる。足元から視線を上げたくない。視界は卓で埋まっているから。これ以上鼓動が早くなるなら、私は死んでしまう。卓に殺されてしまう。

「桐、ボクのことまだ好きなんでしょ」

「ぇ」

そう思っていたのに、卓の言葉に思わず声を漏らし、視線を上げる。立ち止まる卓に合わせる。
なぜか不安そうな卓の顔。まるで、親を待つ子供みたい。
相手に自分の答えを言ってほしい、自分からは答えを言いたくない、そんな表情。卓はいつも自信に満ちているような顔をしているのに。妙だ。

「そうでしょ?」

黙る私の手を、痛いほどに握る卓。

本当に、子供みたい。
それに、私みたい。