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複雑・ファジー小説
- Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.28 )
- 日時: 2012/07/08 21:33
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)
+17+
そんなことを言われたのは、初めてだった。昔は私が言わないと、してくれなかった。それなのに。今更。
何を言っているんだ。そんな表情を作ってやると、卓は目を細めて私の腕を強くつかんだ。そして私を無理やりに引っ張っていく。
私は「良い」なんて一言も言っていないというのに。自分勝手な人だ。
そんな手を振り払うことができない私は、一体何なのだろう。
私の様子を見て、卓は気を良くしているようだ。
「ほら見ろ。桐はボクを拒むことなんてできないんだよ。桐はボクのことが好き。桐は、」
独り言をうわごとのように繰り返す卓の背中を見ながら、私はため息をついた。
変わった。卓は変わった。何だか、情けなくなった。それは多分、私の視界が広がったから。いろんな事を見ることができるようになったから。変わったのは、私の方なのかな。
卓の視界は、狭まった?それとも、元から自分しか見えてなかった?どっちなのかな。
それはきっと、卓しか知らない。でも、卓も分かっていない。卓は自分に自信がないのだから。それを認めることもできていない。
「どこ行こうか?」
振り返る卓の笑顔に、私の胸がきゅっと締まった。
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