複雑・ファジー小説

Re: 思案中 ( No.3 )
日時: 2012/06/03 21:58
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)


+2+


夜になって、ご飯も食べたし、もう寝ようと思って電気を消した。いつもなら、まだアイツがいる時間だけど、今日はいない。罰をしっかり守って、私の家には来なかった。

静かだ。車を走る音がよく聞こえる。鳥が鳴いている。
このアパート、あまり防音できていないんだな。
久しぶりに早めに寝られそうだ。
夢は見ないと思う。

そう思って、瞼を閉じる。

『ピンポーン』

だから、無視しようと思った。
いくらアイツでも、このくらいの罰なら受けられると思った。甘かった。これは奴だ。証拠はない。でも何となく、感じる。奴の気配を。

インターフォンの後、静かになったと思ったら、ドアノブを回す音が響いてきた。うるさい。もちろん鍵をかけているのだから、開かない。

今度はドアを拳で叩く音。
完全に奴だ。どんどん罰が積もっていく。
近所迷惑だということを考えろ。苦情を受けるのは私なんだ。

「先輩ー」

声まで聞こえてきた。最悪だ。
さっさと部屋に入れるか追っ払ったほうがいいだろう。でもどっちにしたらいいか分からない。ここで入れたら罰にならないけど、私は結構、コイツに甘いから。

「先輩……? 居ないんですかー? 俺、もうダメっす。だから、他の罰とか考えて来たんすけど……ダメっすか?」

本当は、ダメに決まっている。でも仕方がない。苦情を受けるのはとても面倒だ。それなら今だけコイツにかまってやるほうが、楽かもしれない。
私は立ち上がって鍵を開けた。
音で気が付いたのか、コイツは自分でドアを開けて、恐る恐る顔をのぞかせた。

「先輩……」

「何? 開けて欲しかったんでしょ?」

途端に、ぱぁっと表情が明るくなるコイツ。
私の背中を押して、部屋にぐいぐいと押し込んでくる。

ため息をつきながら、私は部屋の電気をつけた。