複雑・ファジー小説

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.44 )
日時: 2012/06/23 18:49
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)



+22+


「変な笑い方」

凛とした声に、振り返る。驚いた。まだ生徒が残っていたとはな。俺は持っていた本を机に置いて、入り口に立っている少女を見つめた。
時刻はもう6時程度。日が沈みかけて、赤い光が図書室の本の影を伸ばす。
眩しくて、目を細めた。

「何がさ」

攻撃的に喋らないように気を付けながら、言葉を紡ぐ。
彼女は、俺だけをその長い睫で飾られた瞳で、じっと見つめていた。
彼女の髪はすごく茶色い。多分、染めているのだと思う。痛んでいるようだし。短くなっているスカートから延びる脚は長く、それなりの美人。いや、文句なしの美人。
面識は、無い、はず。記憶に無い。

「君のことだよ、小片辰臣」

そんなことは分かっている。だってここに居るのは俺とコイツしかいないのだから。
ご丁寧にも俺の名前をフルネームで呼んでくれた彼女。何だか、好きになれないなぁ。俺は俺の名前好きじゃない。だって古臭いし。そんな高校生の気持ちを、彼女は全く考慮していないようである。

「俺? 俺と君って、何か接点合ったっけ?」

彼女に変だと言われた表情を作りながら、本を再び手に取った。
本棚に押し込んでから振り返ると、彼女はもう俺の側まで来ていた。いつの間に。全く気が付かなかった。

「無いよ。無いから、気になったの。君は、とても笑顔が変だ。嘘っぽいもの。ねぇ、貴方は、どんな人?」

これが俺、小片辰臣と彼女、穂波築の出会い。