複雑・ファジー小説

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.53 )
日時: 2012/07/01 14:52
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)



+28+


「小片辰臣」

今日の仕事は、汚れた本の手入れ。クラスメイト達に押し付けられて始めた図書委員だが、今では気に入っている。
俺は、手を止めて、入り口に立っている穂波を見た。穂波は、俺を見つめながら、近づいていた。そして、俺の隣に座る。
耳に髪をかける、座るときにスカートを整える。そんなところは、女子っぽい。何だか見ていられなくて、俺は穂波の方から視線を外した。

「どうしたんだよ、穂波。校門で待ってるんじゃなかったの」

なんか、待っているのが当然みたいになって来ている。そんなんじゃないのに。
穂波は、相変わらず何を考えているのか分からない。

「ん? どうして? 別に良いじゃないか、小片辰臣」

首を傾げる穂波。可愛い。可愛い。くそ、可愛い。目がクリッとしてて、髪が傷んでいるけど、サラサラで。そんで、唇をプリッとしてて。彼氏とか、居るのかな。というか、なんで俺に構うんだ。

「あとさ穂波、なんで俺のことフルネームで呼ぶわけ?」

ため息を吐いて、邪念を振り切る。それでも、問いかける際に穂波の方を向くと、やっぱり、可愛い。とか考えちゃうんだよ。こんなに近いのは、初めてかもしれない。

「お前が私のことを、穂波、と呼ぶからだ。だけど私はお前の名前を呼びたい。そういうことだ。呼ばれたくないなら、私を築と呼べ」

なるほど。交換条件、みたいな感じか。我儘な。別に穂波も、小片って
呼べばいいのに。
そう思ったけれど、どこか期待するような目で見る穂波を、突き放せなかった。

「……築」

これが、俺達がお互いを名前で呼び合うようになった話。