複雑・ファジー小説

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.55 )
日時: 2012/07/08 21:25
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)
参照: http://忌屋=いみや いりこさんにいただきました


+30+


目が覚めなかった。目を閉じているのか、分からないほど。足が切断されたかのように、重く。動けない。そんなボクの目を覚ましたのは、ポケットの中で震えた、携帯だった。体がびくりと震えて、迷った挙句、通話ボタンを押す。
ボクに電話をかけて来るのは、アイツしか居ない。

「……何」

自分でも驚くほど、掠れた声だった。喉がひりついて、痛い。

『今、どこ』

いつ聞いても、面白いことを言わない。そんなコイツに、嫌味の一つでも吐いてやりたかったけれど、うまく言葉が浮かばなかった。

「関係あるの」

やばい。自分で言って、吐きそうになった。桐の言葉がボクの心臓の中の皮膚を、剥がしていく。
関係、無いんだよ。無いから、無いから。だから、なんだよ。

『ある』

コイツみたいに、はっきり言えていたら、桐はまだボクのことを見ていたかな。
コイツには、根拠がある。理由がある。でも、ボクと桐にはそんな確かなものは無いから。だから、困るんだよ。何で桐を繋げば良いの。

『……忌屋、桐さんと会ってたの』

責めるわけでも無いその言葉に、笑いそうになった。なんだコイツ、ボクのこと全部分かってるつもりかよ。ふざけんな。
黙っているのを肯定と受け取ったのか、コイツは声を低くした。

『ねぇ、忌屋は、まだ、桐さんのことが好きなんだ。そうでしょ』

今度は、責めるような言葉で。ボクの頭の中で、プツリと何かを繋げていた物が、切れた。
その問いは、いけない。

「はあああああああああああああああああああああ? ふっざけんなよっ! なんでそうなんだよっ! 好きぃいいいい? っんなわけねぇだろ! ふざけたこと言ってると壊すよ! 良いの!?」

突然大声を出したボクに、周りの人間の目線が集まる。
気に入らない。気に入らない。全部、気に入らない。
ボクの手の中で、めきめきと携帯が悲鳴を上げている。

『……ごめん。壊さないで』

しばらく黙っていたコイツも、ボクの叫びに圧倒されたのか、すぐに折れた。一気に叫んだせいか、息が切れている。
気に入らない。気に入らない。汗が滲む。気に入らない。

「っは、分かればいーの。二度とふざけたこと言わないでよね。言ったら、本当に、壊すから。頭入れといて」

分かってるよ、その言葉を最後に耳に入れて、電話を切った。
気分が悪くなった。最悪だ。なんで、ボクがこんな目に。ボクは、なんでこんなに不機嫌なの。桐が、手元に無いからかな。手元に置こうかな。ボクの側に、繋いじゃおうかな。
そうだな。
繋ぐのにはやっぱり、首輪が一番だよね。