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複雑・ファジー小説
- Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.64 )
- 日時: 2012/07/12 22:08
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)
+36+
「辰臣と同じ大学に行く」
築が突然そんなことを言うものだから、傾けていた水筒の中のお茶を、鼻から啜る羽目になった。珍しく隣では無く、向かい合わせに座った時点で、何かおかしいと思ってはいた。が、まさか、そんな真面目な話とは。
「は、はあ!? なんで!?」
袖で顔を拭うと、築の眉間に皺が寄る。構うものか。大体、男子はハンカチを持っていないのが普通なんだよ。
「なんでも何もないだろ、私が行きたいと思ったんだよ、辰臣」
相変わらず、人の名前をよく呼ぶ築。築は俺をじっとその長い睫の付いた目で見つめてくる。
そう言えばこの間、築と仲が良いと勘違いされて、絡まれた。散々だったけれど、別に仲が良いわけじゃないし。ただ、ただ、ただ。ただ、なんだろう。
築が俺に構っているだけ?俺が、築を引き留めているだけ?
「別に良いんじゃないか……俺は何でも良いと思うけど……」
なんだか恥ずかしくて、再び、水筒を傾ける。
そろそろ夏休みに入る。そうしたら、築とはしばらく会えないな。夏休みが終わったら、また、図書室でこうやって駄弁るんだろう。そう思うと何だか変な気分だった。
「そうか、そう言ってくれて、良かった。私はな、辰臣」
ごろりと転がり込んだ氷の塊を、舌で包む。水筒の水面の先で、築が軽く笑った。
初めて見た。笑った顔。嬉しそうな。それでいて、何かに諦めた顔。なんだよ、その顔。築らしくない。
「お前とできるかぎり一緒に居たいんだ、辰臣」
がぎゃん。
氷を噛み砕くと、奥歯に染みた。虫歯だろうな。甘い物を食べすぎると、後悔するんだよな。でも、繰り返すんだ。それが、俺。それが、人間。
これが、裏で平穏が崩れているのに気が付いていない、俺の哀れな話。
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