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複雑・ファジー小説
- Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.72 )
- 日時: 2012/07/22 19:43
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)
+43+
「忌屋」
鍵がかかっていなかったので、部屋に入る。電気が付いていなくて、薄暗かった。電気のスイッチを押して、部屋に明かりを灯す。
部屋の真ん中に、忌屋は蹲っていた。
「ごめんね、忌屋」
何に対しての、ごめんなのか、私自身分かっていない。
だって、忌屋が言う方だもん。忌屋が、私に、私たちにごめんしなきゃいけないのに。
このガキはそのことを何も分かっていない。
「……何しに来たの」
膝から顔を少しだけ上げて、目だけを私に向ける忌屋。
髪は乱れていて、壁には何かで引っ掻いたような跡。割られた食器。引き裂かれた寝具。
相当荒れたようだ。全く、駄々をこねる子供のよう。
「謝りにだよ、忌屋」
とりあえず、食器の破片を拾う。
掃除してあげなくちゃ。私は忌屋の彼女なのだから。忌屋の中では別れたことになっているようだけど、私は忌屋を離すつもりはない。
違うな。
解放するつもりは、無い。
「……ふざけんなよ、ほんと、気に入らないんだけど」
視界の端の忌屋が立ち上がる。なんだ、動けるんだ。
なんて、呑気なことを考えていると、忌屋は私の近くのコップの大きな破片を拾い上げて、握りしめる。忌屋の皮膚が裂けた。
「いみ、」
「もう喋んなくていーよ」
いやいやいや。コップは食べる物じゃないから。
口の中に突っ込まれたガラスの破片が、舌を切り、歯茎の間に割って入る。
吐きだそうにも、忌屋の赤い手が、それを許さない。
「ボクのお気に入りであるように、頑張りなよ」
今日も、私の忌屋の血は、鉄の味がする。
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