複雑・ファジー小説

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.73 )
日時: 2012/07/23 16:47
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)



+44+


時が止まって、視線は、釘付けにされた。
思わず唾を飲み込んで、走り出す。人を押しのけて、見間違いかなんて考えずに、その人の腕を掴んだ。
前よりも、ずっとずっと細い腕。

「築っ……」

3日。たった3日。築は、大学に顔を出さなかった。もともと不安定な関係な俺たちだから、お互いのメールアドレスも知らない。だから、心配で仕方なかった。女々しいと言われるかもしれない。それでも、ずっと隣にいた存在が居ないと、不安だった。
築の姿を久しぶりに見た俺は、居てもたってもいられなくて。

「辰臣」

一瞬だけ、切なそうな顔をしたのを、俺は見逃さなかった。築は普通の表情を作ったつもりだろうが、失敗している。

「なんか、あったのか」

たった3日で、人はこんなに痩せられるのか。無い。絶対に無い。
絶対に何かあった。

「別に、何も無いよ。辰臣」

そして築は、それを俺に隠す。俺に心配を掛けたくないとか、そんなくだらない理由で。不安を話してくれない方が、よっぽど不安なのに。
俺がもっと問い詰めようとした時、築が俺の手を離して、そっと押した。
初めての、築の抵抗。
頭が真っ白になった。瞬きができない。目が乾く。
俺、何してんだ。俺は、俺は。

「今日は、一緒に帰ろうか、ね、辰臣」

結局、最初から最後まで、築は俺と目を合わせなかった。

これが、築と俺の日常が本格的に壊れ始めた時の話。