複雑・ファジー小説

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.86 )
日時: 2012/08/03 23:53
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)


+52+


「なかなかいい働きはするよね」

昨日は桐の件で疲れていただろうから、私は自分の判断で夕方に忌屋を起こした。水を飲んでから忌屋が言った言葉を、私は一瞬疑いそうになった。
滅多に忌屋は私に対して笑わない。桐には笑う。この差が意味する事を、きっと忌屋自身は気付いていない。桐はきっと分かる。でも、認めない。桐と私は、会ってはいけない。そうしたら、孤独が危ない。孤独の幸せが危ないから。
話は戻るとして、そんな私に対しては厳しい忌屋が、少しだけ笑っていた。私を傷つけているときは笑ったりするけど、そんな黒い意味ではなくて、本当に普通に笑っている。
なんか、気味悪いな。

「……何言ってんの、忌屋。もしかして」

「褒めてんだよ」

昨日は着替えなかったので、忌屋はワイシャツを脱ぐ。線の細い体から、私はさりげなく目を逸らした。何となく、引き締まった体が目に毒のような気がするから。
それなのに、忌屋は私の肩を掴んで引き寄せて、高校の時に染めて痛んだ私の髪に、唇を寄せた。

「桐はボクが言わないと何もできなかったからね」

無意識に『桐』と繰り返す忌屋に、私は『触るな』なんて言えるはずもなかった。
風呂に向かう忌屋が触った肩を、そっと払うだけの、子供のような抵抗をしておいた。

それだけ。