複雑・ファジー小説

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.88 )
日時: 2012/08/05 00:00
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)



+参照700+


「……あ、れ?」

俺の首、どこだ。いや、あるある。ちゃんとあるけど。
先輩の部屋に入るときには、靴箱の取っ手にかかっている首輪を自分でつける。だけど、今日は無かった。そこにあるはずのものが、無かった。台所に立っている先輩は、俺の方を見ようともしない。
泣きそうだ。なんで。先輩に近寄ろうとして、止めた。

「先輩、俺の首輪は?」

リズムよく響く包丁の音は、俺の言葉なんかじゃ止まらない。先輩は俺の方を見ない。
頭が無くなったみたいにフワフワする。なんか、夢みたいだ。信じられないのか、俺。首が、無いみたい。

「ん? あぁ、捨てた」

先輩が俺を見ない。先輩が俺を見ない。先輩が。こっち見てよ。
捨てたって、何。俺に無断で、俺にくれた物、俺の物、捨てたの?先輩の独断で?そんなの聞いてないよ。どうして。話してくれたって良いじゃんか。それとも、話せなかったの?
捨てたから、もう戻せないよって、もう戻れない所に来て、後悔しかできないところで、俺に報告するの?そんなの、卑怯じゃない?俺、そんなこと言えない。
だから、先輩の手首をつかんで引っ張り、こっちを向かせた。包丁が、吹っ飛んで床に落ちる。

「なんで? なんで捨てるの? 俺のこと、嫌いになったから? どうして捨てるの? 俺のことも捨てる? もう飽きたの? 何がダメだった? 俺、俺、先輩に嫌われたらどうしたら良いか、分かんない。先輩、嫌わないでよ、捨てないでよ」

乾いた声が、言葉になっていないような音が、口から洩れる。
めんどくさいよね。俺、面倒だよね。でも、止められない。頭がガンガン痛くて、首が締まって、すごい息がし辛くて、酸素が足りなくて、汗が出る。

「孤独、ごめんね」

何それ。要らない。そんな言葉要らないよ。そんなの要らないよ。止めてよ。耐えられない。そんなんじゃない。先輩にそんなこと、言って欲しくない。
先輩が、俺の腕を振り払って、部屋の隅の机に向かう。
嫌だよ、行かないでよ。
メモ帳とかが入っている引き出しを開けて、何かを取り出した。
ぽかんとする俺の首に、そっとそれをかける。

「おたんじょーび、おめでとー」

「……は?」

「ごめんね、驚かせて。大丈夫大丈夫、まだ嫌いじゃないから」

そう言って、先輩は俺の頭を撫でる。
まだ、とか、はっきり好きって言ってくれないところは、相変わらずだなあ。
指先で触れてみると、前より新しい皮の感触。
先輩が、俺のために選んで、俺に買ってくれた物。俺のことを考えながら、買ってくれた物。

頭、みっけた。


+おわり+


描こうと思ってて本編で描けなかったの。桐が首輪を捨てちゃうみたいな描写が欲しかった。あんまり本編とはリンクして考えない方がいいかも。
桐は人の誕生日とかちゃんと覚えているイメージ。手帳とか有効活用できる計画的な人間っぽい。