複雑・ファジー小説

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.89 )
日時: 2012/08/05 22:43
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)



+54+


「準備できた?」

私は服は着替えずにシャワーを借りて、準備を済ませた。忌屋は顔を洗ってから、頷いた。髪が少し濡れているけど、指摘しない。忌屋は財布だけを掴んで、私の胸に押し付ける。

「鞄持つのめんどくさいから、持ってて」

「うん」

部屋の隅にある姿見をちらっと見る忌屋。結構おしゃれには気をつけているようだ。
姿見も、昨夜はあっけなく倒されていたけど、運よくヒビだけで済んだ。これも買い換えたほうが良いのかな。

「ちゃんとついてきてね。手、繋ぐ?」

玄関の扉を開けながら、忌屋が私に左手を伸ばす。呆れて何も言えずに、ただ首を横に振る。忌屋は軽く舌打ちをして、つまんないのなんて言った。そんなの無視。
忌屋となんか、私は手を繋ぎたくない。私は、忌屋なんか好きじゃない。ただ、孤独のために、可愛い弟のために、やっているだけだ。えらいえらいお姉ちゃんで居続けるために、やっているだけ。
虚しいね、なんて忌屋に何回言われたか。それでも楽しいから良いや、なんてバカにされた回数なんて、最初から数えてない。
虚しいなんて、バカなんて、自分がよく分かってるっての。
こんなの幸せじゃない。望んでない。でも、やるしかない。後には引けない。
もう戻れない。

「忌屋、行こう」