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複雑・ファジー小説
- Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.96 )
- 日時: 2012/08/10 16:43
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)
+61+
店長が頷く、と言うより微笑んだのを見て、私は店長より一足先にケーキ屋の自動ドアをくぐった。客はあまり居なかった。
ガラス張りの壁には4個くらいテーブルと椅子のセットがある。そのうち2つは埋まっていた。店内は広くなくて、テーブルとケーキが並ぶ棚との距離はあまり広くない。
全体が、おしゃれだった。
そして。
息をのんだ。咄嗟に目をケーキが並ぶ方に向けて、気を落ち着かせようとしても、駄目だ。心臓が壊れた。変な動きをしている。左胸を押さえつけた。
店長は、知らないよな。私が昔付き合っていた男のことなんて。説明すれば分かってくれるだろうけど、これ以上迷惑はかけたくない。
今は、普通にしていよう。
一番奥のテーブルに腰かけて、ケーキをちまちま食べているのは、間違いなく卓巳だ。卓巳のことを、私が見間違えるはずはない。
卓巳は私のことに気が付いたかな。気が付いていないでくれよ。
「どうしたんだよ、桐」
「なんでもないですよ、何食べますか?」
卓巳は一番奥だ。幸い、そこから一番離れている場所は空いている。入口にいちばん近いけど、気にしていられない。
私は適当にケーキを注文して、席に着く。
食べて金払って出る。それを短時間で行おう。
店長は首を傾げながら、私に合わせるように素早く注文している。ああ、せかしちゃったか。
でも、今はケーキなんて構ってられない。
私がフォークでケーキに致命傷を負わせた時、店長がケーキの乗ったプレートを、机に置いた。
そして。
そして、店の一番奥を見て。見て。店長の目が。見開く。怖いくらいに。唇が震えている。
でも、不思議とはっきり聞こえる声で、言った。
「……築……?」
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