複雑・ファジー小説
- 第二話 Your world was born part3 ( No.9 )
- 日時: 2012/09/04 21:26
- 名前: 秋山レキ (ID: CrTca2Vz)
光の中をくぐると、さっきいた世界とは違う、世界が目の前に飛び込んできた。
光の外の景色は、所謂る夜の都会のようだった。
そして、その幻想的な景色が一望できる場所———おそらく最も高いであろうビルの屋上に俺と香夜は立っている。
「———す、げぇ」
俺がそう呟いたとき、香夜は得意げな顔をした。
「これで信じてくれた?」
「ああ、もうなんか凄すぎてなんも言えないというか———」
するとさらに得意げな顔になった。
「じゃあ、霧夜。改めて私のことを紹介するね」
そして、すっと真面目な顔になり言った。
「私の名前は、若月香夜。霧夜の婚約者、そして———あなたの武器」
「……それはどういう意味だ?」
「あなたはこれから、沢山の人と戦うことになる。だから、その武器に私を使って欲しいの」
「いや、でも……そんなことある訳が———」
「それがあるの」
俺の言葉を遮り、香夜は言った。まるで、その言葉を聴きたくなかったのかのように。
「まず霧夜には、この世界が存在している意味を説明するよ?」
「ああ、聴かせてくれ」
俺は、香夜の顔をしっかりと見つめる。
「まず、この街には———王がいないの」
「王がいない?ならなぜこの世界がまとまってるんだ?」
「それは、この街には住民がいないからだよ」
「住民が……いない?」
「そう。だけど、この街は動いている」
「どういうことだ?」
「この街は、王を決めるため。そのためだけに存在しているの」
もう、なかなか意味が分からない。
王を決めるために、街が存在する?訳が分からない。
「そして、王を決めるため。私たちは敵と戦わなければいけないの」
「でも、なんで俺たちが狙われなければいけないんだよ!まだ王になるとも言ってないのに」
「王になるためには、自分以外の全ての人間を殺さなければいけない。だから、私たちみたいな来たばかりの弱いものたちを殺しにかかるのよ」
「いやでも、戦い方が分からないし———」
「戦い方なら私が教える。だから安心して?」
「そんなんじゃ、安心できねぇよ……。俺が一番聞きたいのは、その殺されたものたちがどうなるかだ!もし……俺が死んだらあっちの世界の俺はどうなるんだよ!」
少し頭に血が上ったのか、俺はつい怒鳴ってしまう。
「大丈夫、現実世界では死にはしないよ。でも、この世界にはもう入れない。武器もろともね」
「じゃあ、もし俺のミスで俺たちが死んだら、お前はどうなるんだよ」
「私は……この世界からも、霧夜の住んでいる世界からも消える」
「そんな……、じゃあこの世界に来なければ良いんだ!そうすれば殺されることもない」
「それもダメなの。持ち主が武器を召喚し、私たちを殺すことが出来るから」
「私……たち?」
「うん。現実世界で死んだら、霧夜も死んでしまうの」
香夜の申し訳なさそうに言った言葉を聴き、俺は吸血鬼に襲われたことを思い出した。
少しだけ体が震える。そんな……じゃあこの世界に来た時点で俺は戦うことしか選択肢は残されていないのかよ…………!
「霧夜?あなたは絶対私が助ける。だから、一緒に戦おう?」
そんな俺を心配してか、香夜が両手を握って言った。
「……分かった。だが、一つ気がかりなことがあるんだが、なぜそんなに香夜は王になりたがるんだ?」
「それは……王になったら、神になる権利が与えられるからだよ」
「神に、なれる?」
「……そうだね。簡単に言うと、願いが叶うって言うこと。それより今は———」
「今は?」
香夜は俺たちがいる向かいのビルを指差した。
「あいつを倒そう?」
俺はすぐに香夜の指差すほうを見る。
だが気づくのが少し遅かった。いきなり香夜が俺の目の前に現れ、俺を狙ってきたであろう何かを腰にある刀で防ぐ。
「霧夜!私のところに来て!」
「いや、でもそいつが———」
「いいから早く!」
「わ、分かったよ」
俺は香夜の背中の前まで行く。
「で、どうすれば良いんだ?」
「私がこいつを抑えているうちに、私が言うことを繰り返して!」
「へぇ……、まだそいつに教えてなかったのかよ。ホープス」
一瞬、俺の体が凍りついたのが分かった。
そう、あの時俺のことを襲った、あの吸血鬼だ。
あの時は暗くてよく見えなかったが、吸血鬼は舞踏会にきた王子様のようなスーツ姿で、右手に刀を持っている。
髪は黒色で、男にしては長い。身長は俺と同じくらいだ。
想像していた通り、とても美少年である。
「あの時は暗くてよく見えなかったが、まさかあの十二星座(コンストレーション)候補の一人だったとはな……少々俺は運がいいみてぇだなぁ」
「へぇ、余裕ぶっちゃって。使用者(ハスバンド)のいないあなたに何が出来るというの?」
「それは、コレを見てから言え。ホープス」
吸血鬼は俺たちのいるビルから、さっき香夜が指差したビルまで後ろ向きのまま飛び移る。
「アンリミテッド・ライド」
そう言うと、吸血鬼はみるみると姿を変え、さっきまで着ていたスーツはドレスになり、髪は白色のストレート。顔はさっきの吸血鬼のクールさを取り、可愛くしたようである。
そう、典型的な美少女へと様変わりした。
「これでも何かいえるのかしら?ホープスさん?」
向かいのビルにいる美少女は、かわいらしい声でそういった。