複雑・ファジー小説

Re: 【カキコ民】夢現の境界線【参加型!!】 ( No.37 )
日時: 2012/12/19 14:42
名前: 月葵 ◆7a0DWnSAWk (ID: Z0yvExs9)


「理事長がなぜここに……?」


不思議に思う私に、音影理事長はうーん、と唸って答える。


「気になったから、かな。主犯は元々、ここの卒業生で学園の……いわばセキュリティの『穴』から入ったらしいからね」
「……ぇ、ええぇぇぇっ!」


そ、卒業生だったの!?
しかも『穴』って何ですか、『穴』って……


「ははは、分かりやすいね柊君は」


笑わないでください……
っと、そんなこと聞いてる暇がないんだった。


「僕も行くよ。彼を説得する必要があるだろうから」
「ありがとうございます!」


理事長にペコリと頭を下げ、私達は一緒に食堂に向かった。






…………ん?




寮の外側が騒がしい気がする……?


「生徒会の名の下、お前らを成敗する!」


……あ。黒髪で長髪、第一印象では、かなり女子とかに人気があるけど実際怒るとちょっと怖いんだよね、サトちゃん。


……ってちょっと!!


「サトちゃん、す、ストップ!! 燃やしちゃダメだから! もう皆が戦意喪失してるから!!」


サトちゃんこと、天王寺 悟君は、片手で犯人グループの一人と思われる人物の首根っこを掴んで、今にも『自然発火』で燃やそうとしていた。

生徒会会長って肩書きがあるけど、生徒会の運営は彼一人で行っている。ていうか、生徒会っていうより風紀委員って言う方があってる気がするんだけど……


「悠乃、それに理事長か……。食堂に居なかったのか?」
「私は転入生の案内してたから。サトちゃんは何でここに?」
「生徒会の予算案が今日中に締切だったから、その案をまとめて、職員室に行こうとしたらあいつらが邪魔をしたんだ。」

だから能力使ったんだね。
でもって(相手の方が)返り討ちにあったんだ。

「他にもまだいるらしい。向こうの方にもいるみたいだからな」
「分かった。ありがと、サトちゃん」
「……気を付けろな」

うん、と返事をしてから急いでその場を立ち去った。






——廊下



教室の扉を開けたら、もう、安全なのは分かる。


…………分かってる。
でも、私は、戸惑ってた。

一度開けてしまうと、何かが崩れそうな気がして。
ここで身を潜めても、何か違うような気がしてならない。


——私は、『来栖 水桜』という存在は…………化け物。



あんな『チカラ』がなければ、誰も私を除け者にすることもなかった。
『チカラ』がなければ、親しかった友達も、それまで優しかった先生も、何気なく話していた同級生も………………

みんなが……みんなみんなみんなみんな、離れていった。
お父さんや、お義母さんまで……


もう、誰も信じられなくなっていた。
いつしか、何も話さなくなった。
心に壁を作った。そうすれば誰からも傷つけられないもの。





……でも。




……柊 悠乃。






あの人は、私を見てくれるの?
『化け物』って言わないでくれるの?



あの人は私のことを『家族』だって言ってくれた。




嬉しかった。そんな風に言われたことなかったから。



その人が、今、犯罪者に立ち向かおうとしてる……



——信じる必要はない。信じても、裏切られるだけ。

確かに、昔、裏切られた。
とても悲しかった。胸が締め付けられる思いで、苦しかった。

辛かった。

つらくて……つらくてつらくてつらくてツラクテツラクテツラクテ……

もう、死にたかったんだ。でも、死ぬのは怖かった。



私は臆病者だね。


——でも、もしあの人が傷ついたら? 自分は『能力』を使えるはずなのに使わなくて、それであの人が傷ついたら?

それは……嫌。
あの人には傷ついてほしくない……
でも、もし能力を使って、あの時見たいに虐められたら?




私は……どうしたらいいの?




「…………ん? どうしたの?」


話しかけてきたのは、ハニーブラウン色のセミロングで、瞳は綺麗なエメラルドグリーン。
モデルのような美人さんだと思ったけど、多分……俗に言うおねぇ……だっけ。


「え……と……」

こんなとき、柊さんがいたら説明してくれるんだろう。
でも今は独りだから…。

「うーん、あ、もしかして高等部に転入してきたってのは君のことなの?」
「はい……」

分かりやすいようにコクンと頷くと、あぁー成る程ね、という感心の呟きが聞こえた。

「悠乃ちゃんに教室にいるよう、言ったんだね?」


何で分かったんだろうと思うのも束の間。


「分かるわよ、あの子が言いそうなことは経験則で。もう20歳だもの! ってレディに何言わせてんのよ!」

なぜか肩を軽く小突かれた。
しかも……年齢は聞いてないです。

暫く黙っていると、

「私は五月女 命。こんな格好してるけど、立派な学生だからね? で、私でよければ相談に乗るわよ?」
「えっと……」

柊さんを助ける決意をしたのは、それからすぐのことだった。

Re: 【カキコ民】夢現の境界線【参加型!!】 ( No.38 )
日時: 2013/02/23 14:02
名前: 月葵 ◆7a0DWnSAWk (ID: LqhJqVk8)
参照: いつまで続くんだこの話(おいっ

——食堂付近、小庭園


「ふぃー……意外に少なかったな?」

そう言う赤米だが、実際は二十数人位いたぞ?
どこをどう見れば少ないんだ?

「京の能力で、相手の先の行動を読めた。動きやすかったな」


っていつの間に矛口が居たのやら……確かにそうだが。


「それで……どうします? この方々は?」


まぁそりゃ……ね。


「縛っとくに決まってるわよね?」
「賛成ー。攻撃されるとヤだな」

九賀崎の言葉に如月と赤米、戦闘に参加した——正確にはこちら側の一方的な攻撃のような気もしなくないが——全員が賛成。

「後は……ひっちゃん次第ってか?」
「そうなるな。赤米……寒くなってきたな、どうする?」
「ったくお前は……そんなに寒いなら教室にいったらどう、だ……」

ん? 最後だけよく聞こえなかったが……
赤米に問おうとしたが、あたりは白い煙で覆われている。


まぶたが重くなってくる……これ、は……睡眠薬か……?
眠ってしまう直前、全員が倒れているのと一人の学生が走ってくるのが見えた。

だが、俺は何も言えず、意識を手放してしまった。



「いくら能力者……いや、化け物でも眠らせたらこっちのもんだなぁ! ったく、手間を取らせやがって」


そう声を発したのは、この学園の者ではない犯罪者。

「はぁっはぁっ……っ!?」

教室から一心不乱に走ってきた水桜は、犯罪者の姿に驚いてしまうが、相手はこちらに気がついていない。

思わず傍の木々に身を隠し、様子を伺う。


「あいつもあいつだしよ……さっさと行動に出たらいいのに渋りやがって……」


あいつ、とは誰かはわからない。食堂にいる方の犯罪者だろうか。

「これだけいればかなりの金になる。一生遊んで暮らせるぜ」


……!! 人身売買のことを言うのだろうか……確かに、能力者は使いようによっては金儲けができるとか。

自分がその立場になったらと思うと、恐怖で足がすくみそうになる。座り込んでしまうのを堪え、静かに食堂に向かった……が、

「んぁ? まだいたのか、化け物よぉ」

「っ!!」

自分ではどうしようもない。どうしようもないけどどうすればいい?
考えは不安、恐怖、焦りを生み、ただただその場に立ち尽くす水桜。

「てめぇも世の中に貢献できるんだ。感謝しろよな、あぁ?」


距離はかなりあったはずなのに、もうすぐ近くにまで来ている。

—……嫌。こないで。こないで……



「誰が世の中に貢献ですか—————————っ!!」


硬直していた体を後ろに引かせ、前に出てきたのは

「は、悠乃さん……」
「うんうん! やっと名前で呼んでくれたね! 水桜ちゃん!」

寮長の柊さんだった。
後ろには知らない男の人……誰だろう?

「やぁ、君。よくもまぁうちの学園に侵入するだけでなく、能力者を攫うだなんてことしようとしたね?」
「はっ、勝手に言ってろ。お前らがいるせいで仕事も努力も認められない世の中になったんだ!!」

ピクっと悠乃さんの眉が動いたのは気のせいだろうか?
……否、悠乃さんは怒ってる。しかもこちらに伝わるくらいの怒りが。


「ふぅ、だからって」「だから能力者は化け物で、化け物は化け物らしく世の中に貢献しなさいって? そんな戯言よくもいえるわね!!」


教室で叫んだ声とはまったく違う、心に響くような声。
隣の男の人の声、遮っちゃったけど……

「大体、自分たちが努力しても認められないなんてことはないし、いくら能力者といっても万能じゃない!

 化け物っていうの、本っ当に最低な発言! 誰もがみんな望んで、好きで、喜んでこの能力を授かったわけじゃないの!!

 人じゃない目で見られたり、独りぼっちになったり、両親から無理やり引き離されたり、能力のせいで人が傷つくのを今でも怖がってる生徒は沢山いるんだ!!

 私たちは能力がある! だけど本質はみんな同じ『人』! 
 そして、この学園にいるみんなは、私の家族です。家族に手出しするのは許さない!!」

そういうや否や、悠乃さんは一歩ずつ犯罪者に近づいていく。

「来るなっ!! お前らのことなんて知ったことか!!」

犯罪者は後ずさりつつも、後ろから拳銃を取り出し、悠乃さんに照準をあわせる。

「やってみれば? あなたの理屈は通らないから」

まっすぐな面差しの悠乃さんに、だんだん焦りを浮かべる犯罪者。

「くるなくるなくるな!!」

パンパンパン……と3発続けて撃つも、悠乃さんに傷はついていない。

「悠乃君の能力だよ。認識中の危機を回避できるんだ」

次に2発……ここで異変が起こった。

「ッ!?」

頬にわずかにかすったような痕。
銃弾がかすったらしい。赤みを帯びている。

このままではいずれ、怪我を……


「くっ!!」


腕にあたり、出血している。
ポタポタ……と手から零れ落ちる赤い血。

「悠乃君!」

男の人も異常に気がついたみたいだけど、下手に動けない状況。

「大丈夫、です」

そう答える悠乃さんは辛そうだ。
私、私、何も、できない……


「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」



—もうそんなの、いやだ!!!!!



パァン……


血しぶきが上がる。視界が揺らぐ。
バランスが崩れ、悠乃さんにもたれかかるようにして倒れた。




「み、お、ちゃん……? 水桜ちゃんっっ!?」

悠乃さんは私を抱えて座り込む。

そう、私が能力を使って、筋肉の細胞を活性化させて限界まで走り、悠乃さんの前に立って銃弾を受けた。

私の力、役に立ったかな……?
痛い……でも、守れたよね?


「っ、……うあぁぁぁぁぁ!!!!」
「……これ以上被害を広げないためにも、眠っていただきますよ」

男の人がそう言い、何かを放り投げた。
それは、ここにいた生徒たちを眠らせた『睡眠薬』の煙型だ。いつから持っていたのだろうか、少なくともさっきまでは持っていなかった気がするが。

その煙は犯罪者を覆い、逃げ去る暇を与えず眠らせた。

「しばらく寝かせましたよ、もう安心です。あとは警察に引き渡しましょう」

「そんな場合じゃありません理事長さん!! 水桜ちゃんの出血がひどいんです! だめだよ水桜ちゃん!! こんなところで死んじゃだめ!!」

「悠乃さん……手、離してください。死にませんし、ちょっと……苦しいです。」


……………………。



…………。



……。



沈黙が流れた。



「へ?」
「よい、しょ。傷は、ないです」

ゆっくりと立ち上がる私。……出血で濡れた制服がちょっと怖い雰囲気になってるかも。

「えっと……もう一回いうね。へ?」
「悠乃君、彼女の能力は『細胞活性』。どんな細胞も活性化させ、超人的な身体能力はおろか、自己治癒できる能力だよ……って、知らなかったんだね?」


「聞いてませんよそんな話!!!! 知ってたら担任の先生を通じてでもいいので教えてください理事長さん!!」
「いやぁ、ごめんごめん」

矢継ぎ早に言う悠乃さんに対し、ぜんぜん悪びれていない様子で理事長さんは謝る。

……本当は、知らなかったんじゃない。言いたくなかっただけだったの。

「あの、悠乃さん……」
「水桜ちゃん。もう何も言わないでいいから。だって『家族』だもんね!」

にっこり微笑む悠乃さんの顔は、とても暖かかった。
私の居場所がこの学園になるかなって、少し思えた。


その後、犯罪者たちはすべて取り押さえられ、警察に引き渡された。
もちろん、食堂にいた人もだけど……

その人は、大切な奥さんも亡くなり、信頼していた能力者の友人から多額の借金を背負わされたらしい。迫り来る不幸に心が病み、自暴自棄になっていたところで犯罪者たちと知り合いになったんだとか。

でも、その人は犯罪者の首謀者—私たちが接触した方—が捕まったのを知ると、自首したそうです。心を改めようとしたんだと思います。


平和な生活が戻ってきました。
私もちょっと、話せるようになりました。


……で、今、私の歓迎会をしています!