複雑・ファジー小説
- Re: 勇者で罪人の逃避行!【1-7更新:7/21】 ( No.43 )
- 日時: 2012/09/22 18:19
- 名前: ジェヴ ◆hRE1afB20E (ID: jP/CIWxs)
夕焼けのアシス街を、とある宿屋の二階から眺める『剣士』は、口元は不敵に笑っているものの目は鋭く何かを探しているように見えた。警戒か、見張りか。いずれにしても今、話しかけにくい雰囲気だと言うのには変わりなかった。
レイラはというと、今日商業区域で買いあさっていたハーブや薬草と言ったものの整理と調合、そしてここに来る際に買っておいた晩ご飯のパンや果実を食べていた。
と、そんな彼女は調合を行っていた手を止め、置いてあったカゴにパンと果実を数個放り込むと、窓に座る『剣士』の元へと近づいた。
「はい、『剣士』さん。何か見えますか?」
レイラが尋ねると、『剣士』は彼女に視線を向ける。そして控え気味に笑うと首を横に振った。
「ん、特にねーな」
そう言うと、『剣士』はゼンの方を向く。
「おいゼンー?」
すると、腕組みをして扉の側の壁にもたれ掛かっていたゼンの獣耳がピクリと動いた。
——そう言えばゼンはエルフと何かの混種族(※1)か。
その様子を見て、『剣士』はふとそう思った。
ゼン・レイトニックと言う男は、おそらくエルフと何かの混種族である。長身で肌が白いのはエルフの特徴的なもので、頭から生えている獣耳と、お尻から生えている尻尾、「獣人」と呼ばれる種族のものだろうか。(ゼンは普段なぜか尻尾は隠してるらしい)
獣人にも様々な種類があり、中には昔差別的な扱いをされていた種も多数存在していた。
そもそも獣人の祖となる者が人間であり、大怪我を負ってそこからモンスターの血液が混入した事が始まりだと言われている。言葉が悪いのは承知だが、奇形が生じ始めたのがその子供からであり、その者の体に何か生じたわけではない。それゆえに混血は区別がつきにくい。
それに、獣人とはいえ大人につれて奇形は消えていくのだと聞いた事がある。名残が残るとしたら、犬歯程度だと聞く。中には肉好きになったりする者もいるそうだが。
しかし、ゼンの場合は魔力の高いエルフであり、それと獣人が混血している。自分の魔力にあてられ、まだ耳と尻尾は消えていないでいるのだろう。
「おい」
と、彼を見ながらまじまじとそう考えていた『剣士』は、彼にそう声をかけられ我に帰った。何だ?と言うと、彼に呆れ口調で「何だ、じゃないだろ……」と言い返されてしまった。あ、そうか俺が名前呼んだんだった、と『剣士』は口を開く。
「立ってないで座ったらどうだ?」
「……いや、いい。疲れたら自分で勝手にする」
「そうか」
「あ、でも無理はしないでくださいね? ゼンさん」
と、レイラが言うと——間もなくいそいそと近くの床に足を組んで座った。無表情ではあるが、若干尻尾が揺れている。
(あー成程、だから普段尻尾出さないのか)
ポーカーフェイスでいても、尻尾で分かってしまうと言う事だ。成程可愛いな(笑)
『剣士』がそんな事を考えているとゼンに睨まれてしまった。『剣士』は苦笑を浮かべると、再び外に目を向ける。
「そーろそろ来てもいい頃なんだけどなー」
『剣士』がポツリとそう呟くと、二人がこちらを向く。ゼンにいくつか食事を手渡していたレイラは首を傾げた。『剣士』は真っすぐある場所を眺めていたが——
次の瞬間、『剣士』は突然目を丸くした。そして突然レイラ達の方に寄ってきたかと思えば、両腕で二人を突き倒した。あまりにも突然の事で、レイラは手にしていたリンゴを離す。「何の真似だ!?」とゼンが尋ねると、『剣士』はアテが当たったとでも言いたげな笑みを浮かべて、言った。
「お前等ジッとしてろ! 今度はデケーのが来るぞ!」
そしてそう彼が言った瞬間、突如強い衝撃が、自分達を襲った。
一瞬、あまりにも大きなその縦揺れに体が浮きそうになったが、『剣士』が抑えつけていたおかげでそうにはならなかった。そしてほぼ同じタイミングで、鈍くも鋭い大きな衝撃波が自分達の耳を襲った。
直後、部屋のタンスや花瓶も勢いよく倒れ、窓ガラスも音を立てて割れて飛ぶ。それにいち早く気付いた『剣士』は、腕にいる二人を自分の下へと抱え込んだ。
「く、っ……!?」
『剣士』はガラスの破片から二人を守ると、自らの背中でそれを受けた。小さく喘ぐ『剣士』の声を聞いたレイラは、ハッとなって彼の顔を覗きこんだ。彼は苦しそうに眉をひそめていたが、「大丈夫だ」と言わんばかりに笑ってみせた。
そうして、揺れはまたもおさまり始める。揺れが引くにつれ、地鳴りも小さくなっていった。
「っと、来るとは思ってたが、またデケー奴がきたな」
『剣士』はそう言うと、二人を離して身を起こした。レイラは慌てて『剣士』に「大丈夫ですか!?」と声をかけるが、剣士は大丈夫だよ、と言う。ふと見ると、ガラスの破片がローブの上からいくつか刺さっていた。その光景に、思わずゼンは硬直する。レイラはそれを見た瞬間、「怒り」にも似た泣きそうな顔で、彼に怒鳴った。
「『剣士』さんの馬鹿ッ! その体でも、まだ痛みは感じるくせに!」
「——ばかやろ、俺はいんんだよ。テメー等に刺さる方が危ねぇっての」
剣士はそう言うと、ゼンの方に視線を向けた。
「お前は大丈夫か?」
「! あぁ、お前こそ大丈夫なのか?」
ゼンは『剣士』の言葉で我に帰り、彼にそう尋ねた。すると『剣士』は「しつこい」と言わんばかりに苦笑を浮かべると、手で追い払う動作をゼンに向けながら言う。
「俺は特異体質だからちょっと治療すりゃ大丈夫なんだよ。ホラ、今から傷治療してもらうからあっち向いてろ」
グロいもんまで見たくねーだろ、と言って彼は二人に背を向け、レイラに傷の治療を促していた。
しかし、そうは言われてもだな、と、目のやり場に困ってしまったゼンは、そのままその手当の様子を遠めに眺めていた。
との時、ふとある違和感を覚える。
ガラスの細かい破片が浅く刺さっていたのであろう、服を脱いだ背中は少し傷ついている。しかし、何かが変だ。一体何が——?
「じゃあ、巻きますね? 漬けハーブ塗っておきましたから」
だが、その違和感を解消する事は出来なかった。傷ついた彼の背中は間もなく包帯に覆われる。そして全て巻き終えると、『剣士』は待ちわびたかのようにグッと背伸びをしてみせた。
「おい!」
傷は癒えていない。背伸び何てしたら傷が広がるのではないのか?ゼンはそういった意味で彼にそう言った。すると彼はまた「大丈夫だよ」と言いはった。レイラももう諦めたのか、溜息をついて首を横に振った。
と、その時だ。
ゴッ——
また、地面が揺れた。先ほどと比べれば比にならないほど小さなものであったが、一瞬飛び上がりそうになるほどだ。それも、その地震はすぐに止んだ。三人は誰からと言わず顔を見合わせ、『剣士』は苦笑を浮かべた。
「思ってたよりヤベーなぁ。レイラ、ゼン、行くぞ。レイラはゲートの用意しろ」
「え?行くって、どこに?」
レイラが尋ねると、『剣士』はレイラに向かって「俺達の目的忘れたのかよ」と言う。
それを聞いてレイラはハッとしてから真剣な顔つきになった。
——『へぇ、そりゃあ楽しみだな。何をする気なんだ?』
——『ククク、そうだなァ…強いて言うなら、”————”』
武器商人の男と『剣士』の交わしていた言葉、最後の言葉は聞き取れなかった。そうだ、そういえば彼等はなにか目的があってここを訪れたらしかったな。と、ゼンは彼の言葉を聞いて、その場面の事を思い出す。そしてさらに、続けてレイラとの契約を交わした時に、言われた『”俺”と”俺達がする事の全て”を黙認しろ』という事。今になってようやく二つが結びついた。
……この二人がただの旅人ではない事は分かっていたのだが。今になって少々嫌な予感がしてきた——と、ゼンは苦笑を浮かべた。そして、ゼンは思い切って『剣士』に尋ねた。
「何をする気なんだ?」
すると『剣士』はこちらに振り返り、黒い笑みを浮かべてこう言う、「お前、もう逃げられねーからな。覚悟しとけ」と。その声の冷たさに一瞬寒気を覚え、思わず彼の目を見返すと……彼はやれやれと肩をすくめて溜息をついた。そして立てかけていた「大剣」を手にとると、彼は窓の向こうにそれを掲げて…こう、言ったのである。
「テロだよ、爆破テロ。今から中央広場爆破するぞ」