複雑・ファジー小説
- Re: 勇者で罪人の逃避行!【1-9(途中)更新:7/28】 ( No.51 )
- 日時: 2012/08/12 22:52
- 名前: ジェヴ ◆hRE1afB20E (ID: DSoXLpvQ)
【本編同時進行!番外編1−1:武器商人と用心棒と案内人と】
砂漠地帯の真ん中でとある3人の前に立ちはだかる巨躯の「砂百足」——その側には狩りつくされた小さな砂百足が重なりながら倒れている。
いや、決してその砂百足共も小さくは無い。人と比べれば4倍はあろうかと言う大きさだ。しかし、目の前に立ちはだかる砂百足はそんな砂百足のさらに3倍近くはある。
「絶対に……何が何でも、勝たなきゃ、なッ!」
真ん中に立つ武器商人、彼の側で「氷の槍」を構える仮面の戦士、そして腕に怪我を負ってなお敵に対峙する案内人……。
彼等の息は上がり、肩を激しく上下させれているのにも関わらず、彼等は引こうとはしなかった。武器商人が隣に立つ二人にそう励ますように言うと、彼等は顔を見合せずともほぼ同時に頷いてみせた。
(しっかし、強いなコイツ……!)
相手との実力差を心の中で口にした武器商人は、「バトルハンマー」を握る手に力を込めた。
(——くそ、フラフラしてきやがる……。けど、それでも——)
同時に武器商人は今朝からの事を思い出す。
そう、まだ自分達が村を出る事の事から————
*
「契約成立だ。一時的ってワケだがよろしく頼むぜ——ジョン・ドゥ」
それは、とある早朝の事だった。
地図の向かって東——砂漠地帯の広がる地帯のさらに東、そこは岩が続く険しい山道となっている。そのすぐ近くの小さな村で、”クナギ”はたった今出会った「仮面姿の旅人」にそう言って手を差し出した。彼はほどなくしてクナギの手を握り返していた。
この仮面の旅人は、ちょうど自分達と同じく砂漠越えをするらしい。つい先ほどこの村を「馬車」で出ようとしたところ、この男に呼び止められたのだ。行き先を尋ねられ、「アシス街」へ行く所だと言ったところ、彼が一時的に用心棒をさせてほしいと名乗り出た——そして今に至るわけである。
「——しっかし珍しいな。兄ちゃん、一人で旅してんのか?」
クナギの側でそのやり取りを見守っていた馬車を引く同僚の商人が、ジョンと呼ばれた彼に言う。すると彼は黙ったまま頷いた。しかし、そんなジョンの姿を見てクナギはふと口を開く。
「にしては不用心だな」
「? どこが?」
クナギの言葉に、同僚が首をかしげる。クナギは腕を組みながら、「ほら、よく見ろ」と言いながらジョンの方を見るように同僚に促した。同僚は改めてジョンの方に目を向けるが、クナギの言いたい事がまるで分からなかった。そんな様子を察してか、クナギは小さく溜息をつきながらいう。
「武器も何も持ってないだろ? 一人旅ならなおさら武器が生命線になってくるが……」
”武器商人”という職業柄、クナギが真っ先に目をやるのはその人物の持つ「武器」らしい。これでも一応、武器の傷の具合などを見ればどんな奴かってのは分かる程度の腕はある。しかし、その武器が無いとなれば、自分なりの見極め方ではこの人物の実力は分からない。一人旅をしているにも関わらずこの村まで辿りつける彼の腕を信じていない訳ではないが、とクナギは心の中で苦笑した。
「——もしかしてお前、拳士か?」
と、そんなクナギを横目に、お気楽そうに同僚はある事をジョンに尋ねていた。
拳士とは”けんし”、または『ファイター』と呼ばれる格闘家の職業の事だが、その言葉通り素手での戦闘をスタイルとする人物の事を言う。『自己強化型の「攻撃魔法」』その中でも特に粉砕系補助の魔法を使い、相手とのハンデを縮めたりするのが主流の戦闘方法だ。
「いや、違う。俺は”狩人”……俺の武器は少し特殊なんだ」
しかし、そんな同僚の問いには彼は首を横に振った。そして彼の狩人と言う言葉を聞き、クナギはふと思い出す。狩人と言えば、アレか?どんな武器でもほぼ器用に使いこなせるっていう。剣、短剣、槍、弓、銃……あとまだまだあった気もするが、とにかく浅く広く武器を使いこなす奴等の事を、一般的に”狩人”と言うわけだ。
だが、そんな「武器が命」と言っても過言ではない職業で、その肝心の武器を持っていないとなると……考えられるのは、魔法による武器造形。
「……気がついたか?俺は氷系の魔法を使う——そして、武器を魔法で造形するんだ」
クナギの様子を見て、ジョンは仮面の下で不敵に笑い言う。そこでようやく、クナギは納得したのか「成程」と言って笑った。
「さってと……じゃあクナギ、それと兄ちゃん乗り込め! 時間が無いから今から出発だ!」
そして二人が話しを終えると、元気そうに同僚が声を上げる。二人はそう促され、馬車の中へと乗り込んだ。
——この時に、お互いが……一人でも口にすればよかったのかもしれない。
(しっかし……小腹減ったなぁ)
誰かがその事を、口にしていればよかったのかもしれない。
小腹を空かせた3人は山の先にある砂漠を目指す。
そしてその時彼等は、あんな悲劇が待ち構えている事なんて気付きもしなかったのである。