複雑・ファジー小説

Re: 勇者で罪人の逃避行!【番外編1−2完全更新:8/9】 ( No.77 )
日時: 2012/09/22 18:44
名前: ジェヴ ◆hRE1afB20E (ID: jP/CIWxs)

耳に響く高い金属音が、辺りに響いた。今度は小賢しく相手の攻撃を避ける事も、フェイントをかけたりすることも無く、お互いが真正面から斬りかかる。そしてそれを双方が相手の刃を自分の刃で受け止めていた。つまり、鍔迫り合いの状態だ。
大剣と槍、鍔迫り合いで『剣士』の方が圧倒的に有利である。しかし、それでもなおレオンはそと同等に張り合うだけでなく——
「っ……くそ、ッ………!」
『剣士』を圧倒していた。『剣士』は苦しそうな声を上げ、また息を切らし始めていた。相手を押しているとみたレオンはここが勝負の決まり目だと察し、一気に刃を相手の方に押し切った! 同時に、火焔も大きくなり始め、ついに完全に『剣士』を押し切ったのである。『剣士』は後ろに吹き飛ばされ、背中から倒れ込んだ。彼が手にしていた『大剣』は、彼よりも後方にまではじけ飛ぶ。

「勝負あったな」

無論レオンは『剣士』に剣をとる隙を与えなかった、レオンは地面に倒れこんだ彼の胸辺りを、足の裏で全体重をかけて抑えつけた。『剣士』は苦しそうな声を上げる。
(ッ、クソがッ……!化け物かこいつは!)
『剣士』は自分を見下げるレオンを見て、苦しみながらそう思った。自分はこんなにも息切れを起こしているのにも関わらず、コイツ(レオン)はまるで澄まし顔だ。冗談じゃない、全力でかかってこの始末とは。
『剣士』が自嘲気味に笑みを浮かべると、レオンは怪訝そうな顔をして『剣士』の喉元に槍を突き立てた。
「余計な真似はするなよ、カイン。勝負はついた、大人しく来てもらうぞ」
「…………」
それに答えずにいると、レオンは何を思ったのか『剣士』の顔を覗きこんだまま視線を外さなくなった。しかし、そんな視線を向けられ居心地が悪いのは『剣士』の方だ。『剣士』は舌打ちすると、彼から顔を逸らした。すると少しの間、間が空いて——そしてふとした拍子に、上から声が降ってきた。

「なぜ、お前は魔法を使わなかった?」

それは、レオンからの問いだった。しかしそれは、「指揮官」としてではなく、「レオン」としての、純粋な問い。『剣士』はその問いに対して、再び自嘲気味な笑みを浮かべた。
「何だ、それは俺が魔法を使ったらお前に張り合えたかもしれねぇって意味か?」
アホか、誰がお前みたいな化け物に張り合えるものか。そう言いたげな視線をレオンに向けた。しかし、その言葉はレオンを不快にさせたのか、レオンはその時酷く表情を歪ませた。かと思えば徐にしゃがみ込み、『剣士』の首根っこを掴みあげる。レオンのそんな行動に、「痛いな、離せ」という表情をして『剣士』がレオンを睨み返すと、レオンは声を荒げた。
「カイン、俺はお前が誰よりも魔法に優れていたと知っている! そう——お前は剣もできて、それ以上に魔法のできる男だった! お前の実力はこんなものではない筈だ。なのに、なぜ」
「……、うるせーなァ。耳元で怒鳴んじゃねーよ」
『剣士』はレオンが言葉を鬱陶しいと言わんばかりに怪訝そうにそう言った。レオンは『剣士』の言葉を聞いて、どこか悲しそうな顔をしたが——ついに何か諦めたのか、彼の首根っこを掴む手を離した。そして地面に倒れている『剣士』を見据えて、問う。
「お前は本当に変わった。変わりすぎた。故に聞く、お前は——」
レオンはそこで言ったん言葉を区切り、そして再び口を開いた。


「お前は本当に、カイン・フォースなのか?」


——、
その問いに、レオンは答えてほしくなどなかった。かつてのカインは、こんな男ではない。こんな男であっていいはずが無い。『自分の憧れた男』が、こんな風になるはずが無い。なってほしくも無かった。無言のままでいい、レオンは”沈黙”と言う答えが欲しかった。
「だ、め……剣士さんは、その人は——!」
その問いに、真っ先に口を開いたのはレイラだった。レオンはそう言った彼女の方に向く。すると、フードを被った彼女は、どこか思いつめたような、どこか悲しげな表情を浮かべており……
「…………」
なぜかレオンは、そんな彼女から目はが離せなかった。なぜ、彼女が悲しそうな顔をするのか。彼女の表情は『仲間の事を想って』程度のものではなかった。まるで、自分にも非があるような表情だった。
「いいよ、レイラ。もういい」
と、そんな彼女の表情を見て、『剣士』は少し悲しそうに笑った。その『剣士』の言葉を聞いて、ふとレオンと彼女は『剣士』へと視線を向ける。『剣士』はまるで誤魔化す様子も、足掻く様子もなく、淡々とした口調で、こう宣言してみせた。




「そうだよ、俺がカイン・フォースだ。俺がまぎれも無い、1年前に世界を見捨てた大馬鹿野郎さ」



そう言った『剣士』……いや、カイン・フォースは、レオンの方に両手を差し出した。抵抗する気はまるで見受けられない、おそらく自分を連れて行けと言いたいのだろう。レオンは怒りにも悲しみにも、憐みにも似た表情を浮かべると、彼の手を掴もうと手を伸ばした。カインはそれを見守りながら、呟くようにレイラに言う。
「悪いな。後の事は任せたぞ」
カインはそう言うと、ゆっくりと瞳を閉じた。もう覚悟はできたと言いたいのだろうか。レイラはそんなカインを見て、絶望の表情を浮かべた。
「そん、な……!」
レイラはそう呟くと、ガクリとその場に力なく膝を付けた。
「そんな、剣士さん……駄目ですよ・駄目じゃないですか、そんな事したら貴方が……」
彼女はどこか、自分に言い聞かせるようにそう呟いていた。そして涙を浮かべ、自分の顔を手で覆う。

(…………)
レオンには、その光景が痛々しく目に映る。レオンは見ていられないと、その光景から視線を外した。
しかし、その時だった。


「あぁ、小賢しい……小賢しいぞ。逃げるのか、貴様は」


不気味で殺気だった声が、この広場に響いた。その声を聞いた者の全ての背筋は凍りつき、一瞬にして動きを封じてしまうほど——恐ろしい、声だった。カインは驚きに目を見開き、差し出そうとしていた手を地面につけて身を起こす。そして彼が目に映したのは、レベルⅢ以上の強力な束縛魔法の中で自分を縛っていた光を、ブチリブチリと千切り取る——

レイラの姿だった。