複雑・ファジー小説

Re: 勇者で罪人の逃避行!【番外編&1−11更新:8/9】 ( No.78 )
日時: 2012/09/22 18:49
名前: ジェヴ ◆hRE1afB20E (ID: jP/CIWxs)

(なんだ?)
目の前の少女を見て、レオンは思う。何かの糸が切れてしまったかのように声色の変わった少女——彼女から感じる恐怖を受けながらも彼は、その中に得体の知れぬ『懐かしさ』を覚えていた。

「貴様は”役目”を終えてはいないだろう……?」

と、そう言った『レイラだったソレ』は、無理矢理魔法を千切ったせいで血だらけになった自分の手を、どこか遠くのものを見るような視線で見つめていた。そしてゆっくりと視線をカインの方に向けると、口の端をつり上げる。
彼を見つめるその瞳を、真紅に染めて。
「っ……、…………!」
その瞳を見て、カインは恐怖に目を見開いていた。そんな彼を見据えて、レオンはただ事ではないと槍を構えた。しかし、目の前にいるソレの異常さはレオンにも十分すぎるほど分かっていた。唱兵士、それも彼女に魔法をかけていたのは5人。魔法のレベルはⅢ以上——それも、コレは素手で引きちぎったのだ。
規格外にも、程がある。
レオンは苦笑を浮かべるが、正直そこまでの心の余裕はなかった。しかし、それはその場にいる全員、彼女の仲間であるカインも同じ事だった。カインは目を見開いたまま、ただ呆然と彼女を見据えているだけである。

「あぁ、それともいいのか?」

皆の視線を受けるそんな彼女は両手を広げて、あちこちに術式を展開させ始めていた。複雑で歪な術式、見たこともない形をしたそれは、言い表し用の無い不気味な色に輝いている。
彼女はカインに向かってそう言うと、また口の端をつり上げた。カインはその言葉で我に帰り、とっさに叫ぶ。
「いいわけ無いだろ! あと二年待つって約束だろうが!」
それは、懇願のようにも聞こえる叫びだった。レオンには一体何の事を言っているのかさっぱりだったが、何か非常に危ない状況だというのはわかった。背後に構えている唱兵士に少し下がるよう促す。そして彼自身も少しだけ後ろに飛び、少女との間をとった。ただ、カインだけはその場を動こうとしない。少女はそんなカインの様子を見て少し何か考える素振りを見せた後、いい事を思いついたと言わんばかりに顔を上げ、こちらに歩み寄ってきた。


「そうか、そうだろうな。ではこうしよう、そこにいるそやつ等を皆殺しにしてしまおう」


そして、そう言ってカインの横をすり抜ける。カインは彼女が自分の横をすり抜けた瞬間、少し間を開けて振り返った。
また、彼女の言葉を聞いて、騎士団たちが身構えていた。
「そうすれば、何も問題は無かろう? 貴様が役目を果たしたいと言うのなら、力を貸してやるぞ」
彼女は背中で、彼にそう言った。彼はその言葉を聞いて、拳を激しく握る。その拳は、微かに震えていた。だが、次の瞬間——彼は、意を決して彼女の方に走り出した。
「「……!」」
その光景を見て驚いたのは、彼女の他に騎士団。そしてレオン。カインは背後からレイラだったソレに組み付くと、周りに言い放つようにこう言った。

「——ッ、ゼン! 今だ来い!!」

そう、彼が叫んだ瞬間だ。
教会の屋根の影から、何かが飛んだ。それは彼女に意識を削がれ、弱くなってしまった防壁魔法に、手にしていたハルバードの刃を突き立てた。風の魔法を表す光をその刃の先に集中させていたおかげで、その防壁魔法はまるでガラスのように、容易に打ち破られる!ガラスが割れたような音が辺りに広がり、光の壁が粉々となり宙に消えてゆく。その光の破片の中から、その防壁を破った影が降りてきて、レオンと二人の間に着地した。そこにいたのは、銀髪で碧眼の、一人の青年だった。
「っ!? もう一人仲間がいたのか!」
レオンは彼を見て、思わずそう叫んでいた。誤算だ、”奴”に聞いた時は、二人で行動していると聞いていたのだが——
しかも半円に展開していた防壁魔法の一番脆いと言われる真上を、迷いも無くこうもあっさりと!
(……、カインか!)
と、そこまで考えてレオンは気がついた。おそらくそれは、魔法の知識に精通していたカインの入れ知恵——防壁魔法の弱点など、この魔法を使っている者ですら知らないと言うのに。
カインめ、やはり抜け目は無い。


「レイラ! さっさと起きろ! 防壁魔法が破られた、やるなら今だ!」
と、そんなカインは——ゼンの支援を受け、組み付いていた彼女をゆすりながらそう怒鳴った。するとその瞬間、彼女に変化が訪れる。彼女の顔色がみるみる変わってゆき、ついにはあの元の調子に戻っていった。彼女はキョトンとした表情で、そしてまるで何があったのか分かっていないと言う風に、辺りを見渡していた。
「……、えぇと剣士さん? これは、一体?」
「話は後だ、また魔法張られる前にここンとこ爆破してくれ!」
(何!? 爆破だと?)
と、そんな二人の会話を耳にしようやく我に帰ったレオンは、そうはさせまいと槍を構える。しかし、その瞬間——

「させるか!」

その怒声と共に、ハルバードの一撃が彼を襲った!先ほと防壁魔法を破った、彼だ。
「退け! 貴様らが何を考えているか分からんが、見す見すその『爆破』とやらを見逃す訳にはいかん!」
レオンはそれを槍で受け止めると、彼と同じようにそれを怒声で返す。

しかし、一瞬——それは彼女の魔法を発動させるのには十分な時間だった。


「いきますッ……破壊魔法Ⅲ!」


ふと、彼女の声がしたと思えば、オレンジ色のまばゆい光が辺りを覆う。
(馬鹿な、こんな一瞬で詠唱、術式の展開が出来る筈が無い!)
レオンはしまったと表情を歪めるが、それはもう遅かった。既に完全に術式が展開されてあり、もうその魔法の発動を止める事は出来ない。


刹那、爆音と共に一気に視界が炎と煙に包まれていった。





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魔法を使うには、
『 詠唱(どの魔法を使うのか選択) → 術式の展開(魔法範囲の選択) → 魔法の名前を叫び、発動(魔法効果をもたらす) 』
の段階をふむ必要があります(・ω・)
今回レイラは最後の段階しかふんでいません。何故でしょう?フフフ(蹴



最近手抜きですいません。致命的な程描写が少ない…(´・ω・)