複雑・ファジー小説

Re: 勇者で罪人の逃避行!【番外編4完全更新:8/24】 ( No.100 )
日時: 2012/09/22 19:01
名前: ジェヴ ◆hRE1afB20E (ID: jP/CIWxs)

「ところでさっき、地上にいた時……何があったんですか?」

カインに先に進むように促され、その地下の広い空間を歩いている時、カインの後ろでふとレイラが口を開いた。カインが立ち止まってレイラの方を向くと、レイラは不安げな表情をこちらに向けている。そしてカインと目が合うと、気まずそうに視線を下に落としていた。
「まさか、”出てきちゃったんですか”?」
彼女がそう言うと、カインは一瞬ゼンの方を見た後、コクリと頷いた。ゼンはそんなカインの視線を受け、何か察したのか少し二人から距離を離した。
すると、目に涙を浮かべながら、レイラが顔を上げる。何か言おうと口を開くが、そのまま押し黙って泣きそうになるのを必死に我慢していた。カインはそんなレイラの頭を一度だけ乱暴に、しかしどこか優しく撫でた後そっと口を開いた。
「仕方ねーよ。けどまァ、すぐ引っ込んでくれてよかったよかった。って事で」
「う……、そ、それにッ!」
すると、今度レイラは拗ねたような、怒っているような表情をしながらカインの服を掴んだ。
「それに剣士さん。何であの時、あんな事言ったんですか!?」

”『……悪いな。後の事は任せたぞ』”

「そんな事したらどうなるか、剣士さんが一番分かってる筈じゃないですか……」
レイラは借りていたローブで涙を必死に拭いながら、震える声でそう言った。それはどこか、彼女自身を追い詰めているような、強い責任を感じているような、そうな風にも見えた。
「…………」
そして、そんな彼女を見て、一瞬だけカインが切ない表情を浮かべたのを、ゼンは見逃さなかった。ゼンはその表情を見て、何か言い表しようにない複雑な心境に陥った。

あの時、ゼンが教会の屋根にいたのはカインの指示だった。何かあった時はタイミングを見計らって救援に入るよう言われていたため、普通の 会話までは聞こえなかったものの、あの時広場で何があったかは知っている。レイラが何度か叫んだのも聞こえてきた。そして、また彼女の様子が一瞬妙だったことも。

しかし、ゼンは二人の会話がまるで、”話題は先ほどの広場の話であるものの、全く別の何かと話を重ねている”ように感じた。
二人には何か、複雑な関係があるのかもしれない。
ゼンはその会話を聞いて、そう察していた。それに、レイラに起こった異変。あれも、あまり自分たち以外には知られたくない事なのだろう。

まぁ、されど自分は彼女の側にさえいらればそれでいいと、ゼンはそこまで深くは考えなかった。


「——はっ、何でお前が責任感じてんだよ」
と、ゼンがそんな事を考えていた時だ。カインは次の瞬間ワザとらしく、どこか慰めるような口調でレイラにこう言った。
「お前が責任感じてんじゃねぇよ。悪いのは俺。な?」
「けど……」
レイラがそう言って視線を上げると、カインはその時、またいつもの調子で笑みを浮かべていた。レイラは思わぬその表情にギョッとする。するとカインは少し小馬鹿にするように鼻で笑い、口の端をつり上げて得意そうにこう言ってみせた。

「それになー、あの時この俺があの紅毛野郎に素直に付いてくとでも思ったのか?」

……、それはつまり。
と、レイラはキョトンとした表情を浮かべて彼を見た。するとカインは、手を頭の後ろで組みながら、いらずらを考えた子供のような表情を浮かべて言う。
「武器を持ってない状況で大人しくついてくフリでもすりゃあ、誰でも油断するだろ? そこでゼンってわけよ。油断をついての奇襲、隙ができた ところをお前に爆破してもらおうとだな——レイラ?」
すると、そこまで話していたカインが、彼女が下を向いて震えている事に気がついた。心配になってレイラの顔を覗き込もうと、ゆっくりと近づいて身を屈める。しかし、その瞬間不意に、カインの顔面に大きな衝撃が。
「ぶッ!?」
避ける隙もなくカインの顔面にソレは炸裂し、カインは軽く吹っ飛ばされる。その様子を見守っていたゼンが目を丸くしてレイラの方に視線を向けると、彼女は確かに、拳を握っていた。
「何ですかソレッ! 私、もしかして本当に剣士さんが行っちゃうと思って凄く心配したんですから! このバカ!」
そう言って倒れ込んだカインの上にまたがって顔面に何度もパンチをお見舞いする彼女。
「あ、あのレイラ……」
そんな暴力的な一面を見せる彼女を見て、ゼンは慌てて止めに入ろうと思ったのだが。
(む、無理だ)
とてもじゃないが今彼女を止める事はできそうになかった。



「そろそろいいか?」
と、それから少したった後、ゼンはようやく、苦笑を浮かべながら二人に言った。ゼンの目の前では、顔を腫らしたカインが正座をしており、レイラが顔を真っ赤にして怒鳴り散らすという状況だ、そろそろ止めに入った方がいいと判断したゼンはそう言ってレイラの手を引いた。するとレイラはハッとした様子でゼンの方に視線を向ける。すると今度は先ほどとは違う様子で顔を真っ赤にして、「す、すいません。お見苦しいところを……」と恥ずかしそうな小さな声でそう言っていた。そして、ようやくレイラから解放されたカインは心底助かったというように苦笑を浮かべ、そして溜息をひとつついていた。そして足を崩しながらゼンの方を見上げ、言う。
「あー助かった助かった。正直怒ったレイラはどうにもできねーからな。それに」
そしてそれからカインは、今度は自分の背後の方に視線を向け、それから言葉を続けた。

「それに、時間もないしな。早い事『コイツ』をどうにかしねーと」

彼の視線を追って、レイラとゼンはソレを見上げた。するとそこにあったのは、不自然な形をした一つの巨大な”砂岩”。
ゼンはそれを見上げて、納得した表情で「成程」と感心していた。
「成程、目的地にはとっくについてた訳か」
「そうなんですか? ならもっと早くに言ってくれれば……」
「さっさと話進めたかったけど、どこかのお嬢さんのせいで話進められなかったんだよ!」
カインはレイラに向かって呆れ半分怒り半分にそう言ったが、視線をその岩に戻すと、それを真面目な顔つきで見据えてこう言った。

「この1年間街を地震の脅威にさらした張本人、それがこの『ゴーレム』だ」

(ゴーレム?)
その言葉を聞いて、その場にいた全員が息をのんだ。この岩の塊、見えている部分でも大きさは軽く30mを越している。それにこれは、形状からしておそらく——
「腕?」
「だな。腕だけで30mとは中々の化け物だぜ」
レイラの呟きに、淡々と答えるカイン。彼はゆっくりとその岩に近づき、そしてそれに軽く触れながらこう言った。

「そうだな、いわばコイツは、アシスの民を恐怖で支配していた”砂塵に紛れる支配者”。そしてここまで巨大なゴーレムを、アシスの民が恐れていた地震の原因を生みだしちまったのはまぎれも無い——神だのを信じて1年間讃美歌を捧げ続けていた、馬鹿な信者共。つまりアシスの民自身だったんだ」