複雑・ファジー小説
- Re: 勇者で罪人の逃避行!【本編1−15更新:9/1】 ( No.117 )
- 日時: 2012/09/07 02:14
- 名前: ジェヴ ◆hRE1afB20E (ID: DSoXLpvQ)
*
時を少し戻したアシス街地下——地上の騒がしいのが耳に届き、カインは黙ったまま上を見上げていた。
「…………」
そしてゆっくりとゴーレムの方を向いて、それからレイラとゼンの方に視線を向け直した。
「レイラ、ゼン。俺は推測を誤ったらしい」
すると、どこかいつもと違う真面目そうな口調でそう呟いた。レイラはそんなカインの言葉に思わず息を呑む。ゼンが、つまりどういう事だ?と言いたげな視線を彼に向けると、カインは困ったように唸りながら腕を組み、辺りをグルグルと回り始めた。
「ゴーレムはな、『自然に生まれてくるタイプ』と、”人為的に生まれてくるタイプ”がいるんだよ」
カインは言う。俺はてっきりこのゴーレムが、”人為的に生まれてきたタイプ”の方だと思っていた。しかし、こいつは若干違う——と。自然に生まれてくるタイプのゴーレムは周りの魔力を取り入れ誕生するため「魔法吸引」が伴い、人為的に生まれてきたタイプは人間が岩などの媒体に魔力を注ぎ込む事で誕生するため、「魔法吸引」を伴わない。
彼はそこまで二人に説明すると、心底困ったように髪をグシャグシャとかきむしりながら、その場にしゃがみ込んだ。
「くそ、考えれば分かった事じゃねーかよ……」
カインがそう言ってため息をつくと、何か考え事をしていたレイラがそんな彼に問う。
「剣士さんはどこまで分かってたんですか?」
おそらくそれは、”これまでの事をどこまで予測していたのか”と言う事だろう。レイラは今まで意図が分からぬまま、カインの指示に従っていたらしい。それはゼンも同じ事だが、ようやく彼の指示の意図が把握できたのか彼女の表情から不安が消えていた。
そんな彼女の問いに、カインは少し顔を上げて呟いた。
「ゴーレムが街の下にいて、そいつは1年もの間に成長してた事くらいだ。あの妙な地震が1年前から続いてたってので、ピンと来たぜ」
彼はそう言ってこちらを向く。
「この地域は元々地震が多いって話だが、それはおそらく砂漠にいた『砂百足』のせいだ。おそらく、この地下を行き来してたんだろう。この地下空洞はその砂百足が通った跡だな……それもこんなに広いんだ、頻繁に行き来があったはずだぜ」
まぁ、この1年はおそらくあのゴーレムのせいで砂百足も寄り付かなくなったんだろうがな。そう付け加えて彼はゆっくりと立ち上がった。ゼンはその話を聞いて、彼に問う。
「砂百足の件が本当なら、ではこの1年地震を起こしていたのはこのゴーレムと言う事か?」
ゼンはそう言って、妙に大きなこの空間を見上げて言った。よく観察してみると、まるで岩が内側から削られているようだ、という印象を受ける。おそらくゴーレムが暴れた後なのだろう。現に砕けた岩が足元に散らばっている。
ゼンがそう言ってカインの方を向くと、彼はその通りだと頷いた。
「1年前、おそらくここにゴーレムが生まれたんだ——それも、自然に。しかし、あの爺さん(司祭)が言ってた教祖だの言う奴が、何を思ってかそれを封じた」
ゴーレムの特性、それは環境による肥大化。
ゴーレムは自分の体を大きくするために、まるで眠ってしまったかのように動かなくなってしまう事がある。それは動物の冬眠に似たところがあり、消費した魔力を取り戻すための休息とも言える。それに加え環境が整ってさえいれば、長い時間をかけて周りの岩を体に取り込む事ができる。
そう思えば、ここの環境はまさにそれに適している。砂が大量にあり、真上は砂漠のオアシス——水も豊富だ。街の地下水が砂漠の砂に溶け込み、それが押し固められ砂岩が出来上がる。
偶然にも砂岩の出来やすいアシスの地下に砂百足が空間を作り、そしてそこでゴーレムが生まれた。その偶然が、このような最悪の結果を招いてしまったのである。
「教会にあった鉱石は、おそらくゴーレムの頭だろうな。ゴーレムの存在に気づいてた教祖が、おそらく地下を掘って頭だけを地上に出してきたんだ」
「……なぜそこまで分かる?」
「広場に敷いてあったレンガだけ、妙に角張ってただろ? おそらく最近レンガを敷きなおしたんだ。それにほら、広場以外のは年期があってか角が丸かった」
ゼンの問いにも平然とそう答えるカインに、レイラは心の中で関心した。そんなこと、街の人でない限り気がつかないだろう。ましてや、昨日今日ここに来たばかりの人間が、気づけるものなのだろうか?
「じゃあ、あの鉱石がゴーレムの頭だって何で分かったんですか?」
レイラはそんな事を考えながら、彼に問う。するとその質問までもを、彼はすんなりと答えてゆく。
「あれがゴーレムの頭だって確信したのは、あれに『呪術』がかかってたからだ。信者の『讃美歌』にしてもそうだ、あれはおそらく『呪文』…それも、”呪縛”の一種だ。その呪文を唱える事で、1年間ゴーレムを強制的に眠らせ続けてきたんだろう。あとはその推測と、他の要因うんぬんで、その結論を出したって訳だ」
しかし馬鹿な信者は讃美歌が呪文だも知らず、1年間も欠かさずよくもやったもんだ。そう言って彼は鼻で笑ってみせた。
(——『呪術』? 『呪文』?)
だが、そんな彼の言葉を聞いて二人は首を傾げていた。呪術に、呪文。聞いたこともない言葉の登場に、二人の頭の中には疑問が浮かんでいた。そんな様子を察してか否か、カインが説明に困るように一瞬口ごもり、言葉を紡ぐ。
「あーだかれその、まぁ大雑把に言うとだな?不思議な力の種類には魔法と呪術ってのがあってだな。その魔法と呪術は似てるが全くの別物で、呪術はなんつーか『呪い』っぽいんだよ。こう、すっきりしないなんかマイナスなイメージっつーか、なんかスゲー邪悪な感じなんだよ」
「つまりどういう事なんです?」
「つまりどういう事なんだ?」
下手くそな彼の説明に、二人は口をそろえてそう言った。カインはその言葉に肩を落として、頭をかきむしり半ばヤケになりながら早口で説明を始めた。
話を整理したところ、カインは魔法と呪術をものに例えてこう説明した。
——まず、大きな一つの世界があり、その名前は「フチギナチカラ」と言う。「フチギナチカラ」という世界には、たった一つの巨大な国家が存在していて、その国家の名前を「マホー」と言う。マホーでの政治にはきちんとした規律があり、市民がそれを守る事でマホーという国が成り立っている。また、その国の通貨は「マリョク」というもので、そうして国として機能している状態だった。
そしてある時、そのマホーという国から独立した国家が生まれた。その独立国家の名前は「ノロイ」。ノロイの政治はマホーと酷似しているが、マホーと統括者が違うために、その両者の規律に差が生じた。また、ノロイの統括者は独裁者であり、自分に逆らえないよう都合のいいように規律を改変して、独裁者のエゴの生じた規律で、国を治めているらしい。ただ、そのノロイの通貨もマリョクであり、マリョクによって国がまわっている。
魔法と呪術、そして魔力の関係は、大体こんな感じらしい。すなわち、「魔法も呪術も魔力によって扱え、また両者は似て非なるものである。」と言う事なのだ。
「……あとな、これは昔本で読んだだけで確証は無いんだが——呪術を作った奴は自分の作った呪術によって自分が倒されるんじゃねーかって恐れたらしいんだよ。そこでソイツは、呪術にある細工を施したらしい。ゼン、一体何だと思うよ?」
カインは若干説明疲れな表情を見せながらも、さらに言葉を続ける。熱心にそれを話す彼は、どこか生き生きとしていた。
「さぁ? 何なんだ?」
そして、カインに答えるよう促されたゼンは少しの間考えるが、まるで見当がつかないと首を横に振った。するとカインは、小さく笑って言う。
「難しく考えなくていいんだよ。じゃあ、もしお前がソイツならどうする?」
「そうだな——もし俺なら、自分にはその呪術とやらを効かないようにするかな」
「ソレなんだよ。だが、少し違う。奴は自分に呪術が効かないようにするためと、外部からの己の魔力の切削を恐れてそうならないようにするために、呪術と魔法の一部……それも特に、魔法吸収を無効にするために、神に祈りを捧げて自分の体のつくりを変えてもらったんだ。それから奴の子孫は『洗礼を受けた種族』って呼ばれるようになったらしい」
まるで神話のような話だ。そう言って彼は笑った後、ゼンの方に向き直り最後に言葉を付け足した。
「ま、ってのが言わゆるエルフなんだけどな」
彼がそう言うと、ゼンは目を丸くしてカインに向き直った。
「どういう事だ? それに俺は魔法を使えるし、呪術なんてのも知らないぞ」
「まぁ、そうだろうな。呪術を使ってるのはエルフでも”ダークエルフ”って言われる奴等らしい」
「…………」
カインがそう言うと、どこか複雑そうな表情を浮かべるゼン。そしてその後に苦笑をこぼし、肩をすくめていた。
「——、さて。そろそろ無駄話もいい頃か」
と、そこで話の区切りを付けたカインは、再びこちらに向いた。彼はいつになく真剣な顔つきで、レイラとゼンも思わず表情を引き締める。カインはそんな二人の視線を受けると、ゴーレムの方に向き直り、言った。
「このゴーレムを倒すにゃ、少々手間が掛かりそうだ。だから、奴の弱点を一気に叩く」
「弱点? それってどこなんですか?」
彼の言葉にレイラが疑問を投げかけると、カインは得意げに笑って口を開く。
「よーく覚えとけよ?ゴーレムの弱点ってのはな——」
と、そう言いかけた時だった。突如——巨大な衝撃が、自分たちを襲った!
「ッ!?」
小さな悲鳴を上げ、その場に膝をつく三人。彼等が側にあった巨大な砂岩——ゴーレムの腕を素早く見ると、それは突如大きく動き始めていた。
「しまっ——!? コイツこのタイミングで、動きや……が、……ッ!」
それを目の当たりにしたカインは思わずそう叫ぶが、その言葉は途中で止まった。彼の異変を感じレイラとゼンが彼の方を向き直ると——
「剣士、さん……!?」
彼が頭を押さえ、その場で苦しそうなうめき声を上げながらうずくまっているのが目に飛び込んできた。
カインは、は今まで見せた事の無い程にまで、苦しそうにしているのである。