複雑・ファジー小説

Re: 勇者で罪人の逃避行!【本編1−16完全更新:9/7】 ( No.121 )
日時: 2012/09/22 19:15
名前: ジェヴ ◆hRE1afB20E (ID: jP/CIWxs)

「おい、大丈夫か!?」
ゼンは素早くカインに寄り、肩を貸す。ゼンは苦しそうに頭を押さえながら、視線を上げた。
「俺の……はいい。それより、ゴーレム、を」
切れ切れにそう言いながら、ゼンに言う。レイラも心配になって駆け寄り、彼の顔を覗き込む。するとカインは苦笑を浮かべた。
「ちょっと、悪い。時間稼ぎ、しといて、く……」
「剣士さん!?」
そう言うと剣士は、力なく崩れ去る。ゼンが肩を持っていたおかげで、地面に倒れる事は無かった。が、カインはその時気を失っていた。ゼンが何度かカインに呼び掛けるが、まるで反応がない。レイラは顔を上げて、ゼンを見る。ゼンもレイラの方に視線を映し、そして二人は同時に頷いた。
「ゼンさん、剣士さんをお願いします。私のできる限りの事、やってみます」
そう言って、彼女はゴーレムの方に向き直る。そして、『ついさっき広場で、自分を束縛していた魔法』を詠唱し始めた。





「くっ!」
中央広場、そこではレオンとゴーレムが対峙していた。レオンは槍に火焔を纏わせ戦ってはいるものの、先ほどからゴーレムに有効だと言えるほどのダメージを与えられてはいなかった。レオンは辺りを一気に薙ぎ払う腕を避け、ゴーレムから少し後退した。
(石と火では相性が悪いか……!)
レオンは息を切らしてはいなかったが、それでも徐々に追い込まれつつあった。ゴーレムは下半身がまだ地面の中で、その場から動けないというハンデを背負っているが、代わりに腕の攻撃のリーチが大きく、長い。それに、腕だけですでに30m近くもある岩の塊。掠っただけでも、生身の人間なら吹き飛ばされて重傷を負う事だろう。相手の攻撃を確実に見きり、避ける。神経を集中させるとの作業は、レオンの神経に負荷をかけつつあったのだ。
「っ!」
その瞬間、ふとゴーレムの腕が目の前に。その巨大は自分を潰さんという勢いで振り下ろされていた。とっさに、それを避けようと横へ跳ぶが——間に合う、か?
しかし、その瞬間振り下ろされていた腕の動きが緩慢になり、彼が飛び退いた瞬間彼のいた場所に握り拳が振り落とされた。よく見てみると、ゴーレムの腕にはその動きを邪魔するように光が絡みついていた。
「指揮官ッ、遅れて申し訳ございません! 我々も戦います!」
ふとそんな声のする方を見てみると、手当された数人の唱兵士が術式を展開していた。援軍と救護班が到着したらしい。彼等が展開している魔法は、先ほどフードの女の動きを制御していた束縛魔法だ。レオンは小さく笑うと、「奴の攻撃範囲に入らないように援護してくれ」、そう言って再びゴーレムと向き合った。


上半身で50mもあるような化け物を、人間の魔法の力で抑え得ることはできないだろう。しかし、それは相手も同じ事だ。あんな巨体を動かすには相当な体力を有するはずだ、自分の体力の源である魔力が消費されれば、魔力不足で暴走を止めるはずだ。だが、この街の人間分の魔力——そう簡単には尽きはしないだろう。
(こうなれば、やはり弱点をつくしかないのか)
レオンはどこか覚悟を決めたように、構えを変えた。体制を低くし、剣先を後方へ向ける。そして再びゴーレムが自分の方へ腕を振り下ろしてきた時、素早く横へ跳び、そして腕へ飛び乗った。そのまま素早く、ゴーレムの『頭』めがけて走る。
「はあああああああああッ!」
大きく声を上げ、出力最大の火焔を纏わせる。それは、カインと戦った時とは比べ物にならないほどの、大きな火焔。その火焔で一気に加速し、そして奴の頭の、不気味に光り輝く場所へ、槍を大きく振り下ろした!だが、まだだ。レオンは手を止める事はしない。素早く槍を引くと、その光めがけて素早い突きをくり出す。そして素早く繰り返す。その勢いにゴーレムは押されかけており、また束縛魔法により動きが緩慢になっているため、素早いレオンの動きについていけていない様子だった。ゴーレムはどこか苦しそうな声を上げる。
(効いてる、か?)
レオンは若干の手ごたえを感じ、視線を鋭くして頭を睨む。
(やはり。コイツの弱点は、頭だ!)
他の体のパーツと種類が違い、そして極端に小さい頭。それに、不気味に光る頭を取り込んだ瞬間、力を取り戻した。それが何よりの証拠だ、おそらく体中に命令を出す頭に魔力が集中しているとふんで間違いは無い。つまり、この光源の破壊さえできれば!
「弱点分かればこっちのもの!!」
レオンがそう叫び、目を見開く。その瞬間、彼の槍が纏う火焔が、今まで以上の強い光を放つ。
「終わりだッ!!」
そして、彼はその槍をその光の中へとブチ込んだ。
その瞬間、ゴーレムは大きく体制を崩す。



「へぇ、すごいすごい。うん、流石竜騎士サンだね」
そんな様子を、遠くの建物の屋根から見守る影があった。黒いローブを全身に纏う彼は、エルギザだ。エルギザは感心したと言わんばかりに感嘆の声を上げ、誰にも聞こえないはずの拍手を彼に送る。だが、彼の口元はまた不自然に、不気味につり上げられていた。そして、やれやれと言わんばかりに顔を振る。
「でも残念、竜騎士サン。それでは彼を倒すことはできないよ」
そう言って、彼は立ちあがる。そして両手を夜空に向かって広げた。
「若すぎるんだね、竜騎士サンは」
フフフ、と笑ってエルギザはゆっくりと瞳を閉じた。そして、どこか心地よさそうにゴーレムによって破壊されてゆく街の崩壊を耳にしていた。





刹那、レオンの体をゴーレムの手が捕らえた。不意の出来事に反応しきれず、反射的に体をよじってみたがそれもむなしく、その巨大な岩の質量に成す術もなく弾き飛ばされた。
「な、ッ……!?」
レオンは全身に痛みを覚えながらも、意識だけは失わなかった。
(なぜだ、弱点は突いたはず——!?)
彼はそんな事を考えながらも、近くなる地面に槍先を向け、今残っているすべての力で火焔を噴射する。ある程度落下速度を抑えることはできたが、50mの高さから落ちた反動は大きい。死んでもおかしくは無い高さだ、レオンは地面に叩きつけられ、その瞬間口から血を吐いた。
「指揮官殿ぉッ!!」
唱兵士の一人が叫ぶ。だが、レオンは動かない。唱兵士の何人かが思わず彼の元へ駈けつけようとしたが、その瞬間白銀の髪がその中から飛び出した。

「馬鹿が、詠唱止めんじゃねぇ! お前等は下がってろ!」

白銀がそう唱兵士に怒鳴りつけると、素早くレオンに駆け寄り素早く肩を持った。