複雑・ファジー小説

Re: 【RPG風】勇者で罪人の逃避行!【キャラ募集】 ( No.23 )
日時: 2012/09/22 19:52
名前: ジェヴ ◆hRE1afB20E (ID: jP/CIWxs)

アシス街は広い。それ故に住宅地の密集する地域ごとに少々の貧困差が生まれているのは事実である。
街の外れの方に位置する貧困区域に、まばゆい光と共に何やら大きな物音が聞こえてきた。
「痛ッ!?」
そう言って真っ先に身を起こしたのは『剣士』である。彼はそう言って自分の落下した「ゴミ置き場」に溜め置きされていたゴミ袋を蹴り飛ばした。そしてここぞとばかりに不機嫌そうな顔をして、「臭い」と一言。彼の頭には魚の骨がくっついている始末だ。

しかし、そんな彼を余所に、以外の人間はその手前に着地しており、間もなく(おとらく魔力か何かで)レイラがゆっくりと地面に足を付けた。
「テメー俺だけゴミ置き場に放り込むたぁいい度胸だな。ワザとだろ!」
「す、すいません……いつも二人転送させてたのに、今回いつもの倍の人数がいたもので」
彼女はそう言って彼に謝りながら、彼に手を差し出していた。それを見る限り、彼女には本当に悪意は無いらしい。

移転魔法はレベルが上がるごとに移動距離が延びる。しかし、だからといって移動させれる総量までもが多くなる訳ではない。より多くの総量を移動させるのに必要なのは、「経験」ただそれだけである。
彼はその事を知っていたので、少し機嫌を悪くはしたが、決して彼女を咎めたりはしなかった。
「ま、まぁ剣士さんなら移転魔法慣れてますし……変な所に落ちても大丈夫かなぁって」
「あのなぁ……」
『剣士』は何か言いたげにそう言うが、呆れ交じりに溜息をついてついにそれ以上は何も言わなかった。彼はゴミ溜めから這い出ると、その場にいる人物の顔をざっと見渡し、もう一度溜息をついた。

「ま、全員無事逃げきれたって事で勘弁してやらぁ」

そう言うと彼は自分の頭についていた魚の骨を、物音につられてやってきたドラ猫共にくれてやった。そして自分の服を何度か払った後、さてと、と区切りをつけた。
「んじゃレイラ、行くか」
『剣士』はニカッとレイラに笑いかけると、豪快に彼女の頭を撫でる。
「今回は80点ってところか。初めての大人数にしちゃあ、中々技術は高かったしな。もちろん、俺様をゴミ溜めに落としてくれた分は−50点だがな」
「つまり30点ですか……。ちょ、ちょっと待ってください! その件については謝ったじゃないですか」
「ばーか、俺のプライドを穢してくれた罪は重いぜ」
「うー、そんなだから器ちっちゃい言われるんですよ」
その言葉を聞いてむくれる少女。そんな彼女に『剣士』は苦笑を浮かべるが、間もなくしてそんな二人のやり取りを見守っていた3人の方へと、不意に顔を向けた。

「んじゃ、テメー等とはここでお別れだ」

彼は不意に彼等に言う。すると、その言葉にクナギが真っ先に反応する。
「おいおい、何だお前等何かあんのか?」
「そー言うアンタこそ、俺にこれ以上何か用があんのかよ?」
”アンタの事散々おっさん言いまわってた悪ガキだぜ?”と、『剣士』は言う。そう言われてしまえば、そうなのかもしれない。
しかし、どうもクナギは妙な縁を感じていた。何故だろうか、ここでコイツ等と別れてしまったら、何か損をしてしまう気がしたのだ。その正体は知れないが、言いかえるとしたら——興味。ちょうど、『剣士』とやらに興味を持ち始めた頃だったからなのかもしれない。
クナギはふと気がつくと、こんな事を言っていた。
「何だろうなぁ、何だか名残惜しい気分だ。もうちょっとばかし話でもしてぇところだな」
「あー悪いな。そりゃ無理だぜ、俺等やんなきゃいけねぇ事あるし。それにここに長居する気も無ェんだ」
『剣士』はクナギの言葉に笑いながら軽い口調でそう言い返して、街をぐるっと見渡していた。そして今度は、彼の言葉に疑問を抱いた銀髪の青年が口を開く。
「する事? 観光で来たんじゃないのか?」
「まーな。たぶんお前等が知ったら目ん玉カッ開いて吃驚するだろうぜ」
そう言って『剣士』はニヤリと笑う。愉快そうな彼を持て、クナギはつられてか笑顔を浮かべながら言う。
「へぇ、そりゃあ楽しみだな。何をする気なんだ?」
彼がそう聞くと、『剣士』は今度クックックと低く笑う。そしてお腹を抱えながら彼はニタァと口を歪ませ、そして口を開く——

「ククク、そうだなァ……強いて言うなら、”————”」

その瞬間だった。
彼が最後の言葉を紡ぎだそうとした、その時に——地面が大きく揺れた!
「ッ、地震!?」
それは、その場にいた全員が感じるほどの大きな揺れ。きっと、意識せずに立っていればひとたまりもなく足をさらわれるであろう。そんな強さの揺れが、何の前触れも無く突如アシスの街を襲った。
「っとと、何だこりゃあっ!?」
クナギはそう言って思わず地面に膝をつける。そんなクナギを周りの転落物からかばうようにして彼の側に立ち、仮面の女が周囲を伺う。
銀髪の青年も間もなく地面に膝を付け、そして”彼女”の方を見ていた。そんな彼女——レイラは、『剣士』の腕にしがみついて彼に何かを言っている。が、その声は地響きで青年の見耳は届かなかった。
「——った、行くぞ!」
と、そんな彼女の言葉を受け、揺れが今も続く中『剣士』とレイラは突如走り出した。青年は慌ててそれを目で追い、そして考える間もなく彼等の後に続き走りだす。その場にいた自分たち以外の全員が走り出し、クナギも思わずとの後へと続いていった。