複雑・ファジー小説
- Re: 勇者で罪人の逃避行!【ふざけたおまけ更新:7/18】 ( No.41 )
- 日時: 2012/09/22 18:15
- 名前: ジェヴ ◆hRE1afB20E (ID: jP/CIWxs)
「なぁアンタ、ここは一体何なんだ?」
あれから3人で少し話を交えた後、『剣士』は突然例の教会の前で、教会から出てきた老人を捕まえてそんな事を聞いていた。その老人と言うのがまた妙な格好で、黒い大きなフード付きのローブに十字架の銀の首飾りという奇妙極まりないものであった。その老人はフードは被っておらず、クセのある年相応の白髪を見せていた。手には何やら分厚い聖書のような本がある。
その老人は優しげな笑みを浮かべて、『剣士』の言葉に答える。
「旅の方ですかな? ここは教会になります。1年前設立されたばかりの浅いものにございますが……」
そう言って教会を見上げる老人。『剣士』は「へぇ」と感嘆の声を上げ、そんな老人の横顔を見つめながら、ある疑問を投げかけた。
「で、アンタはここの神父か?」
「はい、私が司祭になります。ここは、1年前この地に来られた教祖様により設立されました」
……成程。と『剣士』は考える。日が浅い宗教か。一体どのようなものなのか?『剣士』は思わず彼に聞き返していた。すると司祭と名乗る老人は機嫌を損ねる様子も無く、笑顔のまま話す。
「教祖様は3年前より続く地震が”地の神”のお怒りによるものであり、祈りをささげる事によって地の神は怒りをお鎮めになると申されました。……地の神は偉大な神で、お怒りになられていても我々の言葉をお聞きいれなされるのです。この地が揺れた時、我々が祈りをささげるとその怒りをお鎮めくださります」
司祭は手を胸に当て、何かに感謝するかのように小さく礼をしてから、もう一度口を開いた。
「地の神は非常に繊細な神だと教祖様はおっしゃいました。なので我々が祈りを欠かせてしまうと、地の神はお怒りになられます。しかし、地の神は祈りを捧げる我々に繁栄をもたらしてくださる神であり、決して傲慢な神などではありません。この砂漠都市がここまで豊かなのも、”地の神”の計らいによるものなのです」
司祭は『剣士』にそう言うと、「貴方もどうか地の神へお祈りを捧げ、旅のご加護をもらってはいかがでしょう?」と言い残して教会の方へと入って行ってしまった。そこでようやく『剣士』は二人の方に振り返ると、後に続くよう顎で促した。レイラとゼンは顔を見合わせた後、彼の後に続いた。
*
教会に入ると、まず目に留まったのは大きな石——巨大な石が、奉られていた。
それを見て感嘆の声を上げたのは『剣士』だ。
「おーすげぇ……こんなデケー鉱石始めて見た」
そう言ってその石に触れようとするが、彼の前に先ほどの司祭が立つ。
「申し訳ございませんがこの石に触れてはなりません。教祖様よりそう言葉を預かっておりますので……」
そして青年にそう言うと道を開け、「どうか祈りを」と言って司祭は本を開いた。すると、その場にいた信者がそれぞれの首にかけている「十字架の銀の首飾り」を天に捧げるように掲げ、祈りを始めた。
——”No, i twa sno t the momenty et...”
「わぁ……」
その讃美歌は誰もが聞き入るほどに幻想的で——どこか、魔法の”詠唱”を連想される。
レイラはその讃美歌を耳にし、思わず詠嘆の声を上げていた。
——”Ple asesle epunt ilt hed ay tobrin gan evil... ”
——”I ti snt timew henmyl ordre v ive...”
「…さぁ、どうぞ祈りを」
司祭は三人にそう言うと、自らも祈りを捧げていた。「どうか、この地の災禍をお祓いください」そう呟いた司祭に続き、レイラも難しそうな顔をして何かを祈る。いや、祈ると言うよりかは念じていた。そこまで力む必要はないと思うが。
ゼンも何か祈ろうかと顔を上げた時、ふと『剣士』の横顔が目に入った。
(————……)
彼は、笑っていた。
それも、少し悪寒が走る程の何とも言えぬ笑みを。
「って、と。レイラ、ゼン、終わったかー? んじゃ、お暇しようぜ」
『剣士』はこちらを向いた。しかしその時にはもう、あの笑みは既に消えうせていた。先ほどの笑みは何だったのか、そうゼンは思うも、あえて何も聞かずに彼の言葉に対して頷いた。
気がつけば、もう日が傾いている。
さて、今から何をするのかと思い彼の目を見ると、ゼンが尋ねるよりも先にレイラが口を開いた。
「では、今からどうします?」
「んーそだなぁ……」
『剣士』はそう言って腕組みをしてしばし何か考えると、彼は「石」の方を向き、ボソリと呟くように「ま、今日はいいもん聞けた事だし……」と言った。そしてそれからこちらに向き直り、何処か真剣そうな顔をしてこう言った。
「飯にするか! その後は適当に宿探して寝るぞ」
「え、早くないですか? まだ夕方ですよ?」
「いいんだよ、砂漠渡ってきたせいで疲れてんの! 寝るっつったら寝る!」
そう言った彼は自分の腹に手を当てる。その腹が鳴ったのは、それから間もなくの事であった。
「何? ”カイン”の情報を寄こしたのは街の騎士団ではないのか?」
少し時が進んだヴァーハイド。
そこでは、アシスへと”ゲート”をつなぐ準備が着々と進められていた。それを横目に、腕組みをする紅髪の男は、「緑髪の」直属の部下からある言葉を受け、少し驚きながらそう答えた。部下は驚く紅髪の男の言葉に大きく頷く。
「……はい、確かに我々に連絡を寄こしたのは間違いなく彼らですが、情報元は彼らではないとの事です」
紅髪の男はその言葉を聞くと、普段から厳しい目つきを更に険しくし、黙ったままどこか遠くを見据えていた。そして、ふとしたタイミングで彼はその目つきのまま、視線を外すことなく口を開く。
「向こうの騎士団の指揮官に連絡を取れ、そしてこちらに詳しく事情話せと伝えろ。俺の名前を出せば向こうも聞き入れるはずだ」
「了解しました、っと」
紅髪の男からそう命令を受けると、部下は彼に一礼して背を向ける。しかし彼の足はふと止まり、その目はもう一度紅髪の男を捉えた。
「レオンさん」
「何だ。あと俺の事は”指揮官”と呼べと言っているだろう」
紅髪の男——レオンと呼ばれたその人物は、怪訝そうに眉を潜めて彼の方を向く。彼は慌てて謝罪の言葉を口にした後、ふと芽生えた疑問をレオンに投げかけた。
「”カイン・フォース”ってのは、どんな男なんですか?」
「カイン、か?」
するとレオンは、どこか悲しげな笑みを浮かべて顔を少し伏せた。そんなレオンの様子を見て、彼はまた問う。
「指揮官は”カイン・フォース”とお知り合いなのですか?」
そう問うてきた部下の言葉に、レオンは思わず顔を上げた。その顔は、「なぜそう思う?」と問うているようだった。部下は少し気まずそうに視線を逸らすと、どこか言い聞かせるような口調で言う。
「”カイン・フォース”の言葉を聞いた時、指揮官はどこか『懐かしむような、それでいて悲しいような、複雑な表情を見せる時があります』。今まで、そんな事ありませんでしたから」
「…………」
部下の言葉に、全くその通りだと心の中で溜息をつくレオン。そして一言だけ、こう言った。
「アイツは、俺と正反対の男だった」
だからこそ俺は、奴が気に入らなかった。同時に、心から信用していた。
だからこそ俺は、奴を捕まえなければならない。
そして幼き頃から変わりない目的のために俺は……
(俺は、強くなったぞ)
レオンはそういって、強く拳を握った。