複雑・ファジー小説

Re: 灰色のEspace-temps 『平凡な会長と超人な副長』 ( No.11 )
日時: 2012/07/10 18:13
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)





 取り合えず、二人は少女を連れ、病院へ行った。診断は軽い日射病。
「少しここで休ませなさい」という先生のありがたい言葉に甘えて、少女を寝かせることにした。


「うっ…」

 暫くして、少女が目を覚ます。
 傍にいた令子が、「大丈夫か?」と聞いた。ちなみに、飛雄馬はただいまお手洗いである。
 少女はだるいのか、首を少しだけ動かした。


「ここは…?」


 返ってきた言葉は、意外や意外、流暢な日本語である。


「ここは病院だ。君は、テロリストに連れ攫われていたんだぞ、覚えているか?」
「…連れ攫われた?」
「安心しろ。テロリストは捕まった。
 君のお母さんやお父さんは何処にいる? 連絡した方が良いだろう?」


 にこやかに続ける令子。
 だが、少女は上半身を起こすと、冷ややかな声で言った。


「余計なお世話よ」
「…何?」


 少女の言葉に、令子が訝しげに返した。


「だれが助けてくれなんて言ったかしら?」
「…言ってはいないが、テロリストに攫われているのを見たら、誰だって…」
「ああ、やっぱり勘違いしていたのね」少女はクスクスと笑いながら続ける。
「私は、テロリストに攫われたわけじゃない」


 そして少女は、悪意を込めて笑った。


「私はあいつらの、テロリストの一員よ」


 ……だが。


「ヘー、ソウナンダー」
「…何、その棒読みとその無表情な顔は。
 信じちゃいないわね?」
「いや、だって…なあ?」


 ここまで来て、この少女は中二病じゃないのか、と疑いたくなった。
 令子の明らかさまに信じていない態度に、ため息をつきながらも、やはり笑い続ける。


「…まあ、いいわ。信じてもらえなくても。
 こんなナリじゃ、誰だってそう思うだろうから。
…でも、貴女。面白いわね」
「…は?」


 令子が聞き返すと、少女は更に悪意ある笑みを濃くした。









































「…だって貴女、『灰色』でしょう?」





 ダン! と、床を蹴る音が響いた。
 令子は少女から離れ、後ろに下がる。


「…何処で、それを」


 清水のように清らかな声も、ヤスリで削ったような声に変わった。


(…何だ。何だ、こいつ)


 冷や汗が流れる。奥歯が鳴る。産毛が逆立ちする。


(今まで、怖いなんて感じなかったのにッ……!!)

「怖いでしょう?」心を読んだように、少女は言った。
「当たり前よ。だって、貴女より私の方が歳を食っているもの。
 貴女も、『灰色』としてかなりの腕前のようだけど、歳の差には勝てないわ」


 少女は、ゆっくりと近づく。
 歩み寄るのではなく、そのまま空を浮いて近づいているのだ。手足は、全く動いていない。

 まるで、瞬間移動のように、少女は令子の目の前にいた。
 少女は、令子の顎を指でつついて、ニッコリと笑顔で言った。


「あら、恐怖に怯えている顔も可愛いわね。
 恐怖で怯えながらも矜持を保っているのも、また素敵。壊しがいがあるわ」


 けれど、その笑みは温かみなどカケラも無くて。
 更に恐怖を濃くするような、凍てつく笑みだった。


「…貴様、何者だ!」


 震える声で、令子は聞く。
 脳裏で、思考が駆け巡る。


(私が『灰色』だと知っているのは、この世でただ一人のはずだ)
(そして、私以外の『灰色』も、存在しない。というか、あってはならない)
(なのに、この少女は何故ッ…!!)


「あら、私?
 …どうしましょう。『今』の私は、真名で名乗った方がいいかしらね」


 長い、美しい人差し指を口にくわえて、少女はこう言った。




























「Fair is foul, and foul is fair」




 少女がそう放った時。
 この病室を中心とする爆発が、起こった。