複雑・ファジー小説

Re: 灰色のEspace-temps ( No.23 )
日時: 2012/07/20 18:55
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)


「…でも、ちょっと勝手が違うから、説明しないといけない」
「そうなのか?」
「蓄電が難しかったから」


 少し、しょんぼりした顔でティアナは言う。


「大して、蓄電量も増えなかった…。最大で三発打てたものが、六発に変わっただけ。
 …もう少し、私にも技術があればよかったけど……私が良く作るのは、アンドロイドだし」
「あー、構わん構わん」それを見た飛雄馬は、へらへらと笑って返す。


「ティアナと黒川が一生懸命に改良してくれたんだ。それだけでも充分すぎだ。
「……」
「それに、教えてくれるんだろ? 使い方」


 そう言うと、ティアナはがばっと顔を上げた。


「なっ」


 ニコリと笑う。


「…うん!」


 ティアナも、無邪気な笑みで返した。


「じゃあねぇ。まず、空気の量の説明を…」
「すいません」


 ティアナが『空気破壊』の使い方について説明使用としたとき。
 ふいに、声をかけられた。

 凛とした声だが、男の声か女の声かはわからない。

 飛雄馬たちに声をかけたのは、『人間』だった。
 …まあ当たり前だろうが。
飛雄馬たちには、容姿を見たって、それが男か女か判らなかったのである。

 大体、二十歳ほどだろうか。それよりも若く見えたが、しっかりとしたような雰囲気を纏っていて、とても大人びているようにも見える。
 身長は一七〇cmほど。華奢な体格だが、胸はない。
 顔は…芸能人かと言いたいほど整っていた。
 だが、余りにも綺麗過ぎて、これまた男か女か判らない。
 その人は、黒い髪を、巫女のように元結しており、黒いロングコートを身にまとっていた。黒づくめである。


「はい、なんでしょう?」


 飛雄馬は持ち前の人懐っこさのせいか、違和感なく話しかけた。
 だが。

 ティアナは尋常じゃない怯え方をしていた。


「…どした、ティアナ」


 小さな声で聞くと、震えた声で、ティアナは言った。


「…きゅうま。その人から離れないとダメ」
「何故」
「だってその人……」


 そんな様子に気付かない『人間』は、ヘラヘラ笑いながらこう言った。


「ここらへんに、女の子を見かけませんでしたか? 十歳ぐらいの、金髪碧眼の女の子を」
「…金髪碧眼の、十歳の女の子?」


 クリスの姿が、脳裏に浮ぶ。


「…そう」
















 その途端。


 今まで愛想よく笑っていたのが、冷たいモノへと変わった。
 そして、ティアナの細い首に腕を巻き、一気に自分の胸元へ持ってきた。
「ひゃ!」というティアナの声が漏れる。


「ティアナ!!」
「おっと、動かないで」

『人間』は、ティアナの首元に、鋭いナイフを突きつけた。
 ティアナの顔色が青くなる。

 対して、『人間』は、ヘラヘラと変わりなく笑いながら続けた。


「お前……」
「動くなって言っただろ?
 私はすぐに、この子の命を奪うことが出来る」


『人間』の言葉に、飛雄馬は拳を握り締めた。


 茜色の空が、だんだんと群青色に近づいてきている。
 綺麗な一番星が、輝いていた。


「——丁度、この子みたいな、『渡った』少女。
 見ていないとは、言わせないよ」



 その、『人間』の笑みに、飛雄馬は悪寒と、腹の底から出てくる忘れかけた『感情』を、感じていた。



第二章 白と黒と灰色—Blanc et noir et gris— fin