複雑・ファジー小説
- Re: 灰色のEspace-temps ( No.26 )
- 日時: 2012/07/27 14:10
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)
「…たく、最近の学生は恐ろしいね。
そんな危ないものを人に突きつけるなんて。銃口には刃があると想えーって習わなかったのかい?」
フウ、と『人間』がため息をつく。
ちなみにまだ、武装解除はなされておりません。
「不審者相手にそんなことする必要ねえし。
それに、俺は生徒会長だ」
「生徒会長……」
「ちょいとここらは荒れていてな。
人々の安心を守る為に、実力行使を許されている。ただ、俺は一般人だから、こんな得物を使わなきゃならないワケだ。
アンタみたいな、不審者には特に目を光らせてるんだ」
「何か軽く傷つくんだが…」
「うっさい。クリスを追い掛け回しているお前は不審者で決定だ」
「いや、私はキミがクリスを監禁しているのではないかと思って……」
「え?」
「え?」
お互い視線を交わす。
「…どういうことだ? お前は、その、クリスの魔法とやらを狙っておっかけた魔術師じゃないのか?」
きょとんとした顔で聞くと、『人間』もキョトンとした顔で聞き返した。
「そっちこそ、爆発の参考人としてクリスを連れて行って監禁していたんじゃないのか?」
「え?」
「え?」
二人の間に、沈黙が流れる。
「…どうやら、お互い勘違いしていたようだな」
「…みたいだね」
飛雄馬は、ゆっくりとバズーカを下げた。
「何だ…結局はやとちりかよ」
飛雄馬が盛大にため息をつくと、あはは、と乾いた声で『人間』は笑った。
誤解が解けたところで、二人は互いに自己紹介をする。
『人間』の名はシルバー・C・ハリウッド。一応、男だそうだ。
「…さて、キミは『灰色の魔女』のことを、何処まで知っているんだい?」
よっこらせ、と、外国人らしからぬ掛け声で、ベンチに腰を掛ける。
「俺は…黒魔女でも白魔女でもない、としか聞いていない」
「…そうか。では、まず、あの子の魔法から話そう」
そう言うと、シルバーは少し強張らせた。
そして、信じられないことを口にした。
「まずは、あの病院の爆発だが……。あれは…あの子がやったことだ」
思考が、停止した。
「…嘘だろ?」
震えた声で、飛雄馬は聞く。
シルバーは「信じられないことだろうが」と返した。
「あの子の魔法は、様々な名前で呼ばれている。
あるモノは、『拒絶』といい、あるものは『許容』と呼ぶ。あるものは『反転』といい、あるものは、『灰色の魔法』と呼ぶ」
「…反転、っていうのは?」
「そうだな…例を挙げよう。
例えば、人が普通に立っていたとする。これを、願えば逆立ちさせることが可能なのだ。
対照的なら、何でも叶う。
例えば、火がないときに、『火がない現実』と、『火がある空想(願い)』を反転させれば、『火がある現実』になるということだ。簡単に言えば、火を生み出すんだ。
逆に、『火がある現実』を、『火がない空想』に反転することも出来る」
対照的なら、何でも良い。火意外のモノを生み出すことだって出来るし、天地をひっくり返すことも出来る。
…そして、光と闇を反転することも。
「消すことが出来るから、『拒絶』という。生み出すことが出来るから、『許容』とも呼ばれる。
…どちらのことも出来るから、彼女は『灰色』と呼ばれるのだ」
「……どういうことだ?
黒でも白でもないから、『灰色』なんじゃないか!?」
頭が混乱する。
あの少女が、爆発を起こした?
病院で、沢山の人の命を奪い、人々に多大なる傷を残し、令子をこん睡状態にさせた。
それを、あの子が——!?
「…あれはあの子がやったというのは、少し間違った表現かもしれない。
あの子は犯人では無い。張本人ではあるが」
「……?」
「あの爆発は、『灰色』の魔法ではないということだ」
ますます判らない。
あの爆発は、クリスでは無いけれど、張本人ではある。
そして、あの魔法は『灰色』ではない。
「黒魔女と白魔女の違いを、どう教えられた?」
「…魔法の最初の始まりが、闇と教えられた。人を呪うのが黒魔女で、聖職者が行って人々を救った魔法が白魔女だと」
「……少し、論点がずれているね」
「え?」
「確かに、生まれた理由はそうだけれど。
けど、今の存在理由はそんなのではない。何故なら、黒魔女でも人々を救うし、逆に白魔女でも、人を呪う時があるからだ」
「なっ……!」
言葉を失った。
「じゃあ、なんなんだ、一体!? 白魔女は、神様に仕える聖職者たちが行った魔法なんだろ!?」
「だからだよ」
冷ややかな声が、興奮した飛雄馬の言葉を鎮める。
「白魔女が祀るのは、神だ。
神が善だと想ったら大間違いだ。横暴で、暴君で、理不尽な存在である神を祀る。そのためなら何だってするさ、あいつらは。
逆に、黒魔女は神に背く。そして、悪魔に身を売る。それが黒魔女だ」
「……」
「…そして、灰色は」
静かな、広場。
もうすっかり日は暮れ、街灯が照らしている。
おけらがどこかで鳴いていた。
「——神でありながら、人であり人を愛おしく思う。
いわば、人を祭る魔女なのだ」