複雑・ファジー小説
- Re: 灰色のEspace-temps 『少女と世界の裏側』 ( No.8 )
- 日時: 2012/07/13 17:28
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)
第一章 魔女? —Est-ce que c'est magicien?—
とある世界の、とある町。
その、とある表通りで、三人の男が倒れていた。
唯一人、呆然と立ち尽くしている男の腕の中には、小さな女の子が居る。
「な、何だよアイツッ…… !!」
「コ、コイツッ…本当に女なのか !?」
倒された男たちは、口々に言う。若干、声が震えているが、気のせいではない。
彼らが恐れて口々に言うのは——一人の少女だった。
茶色のブレザーとスカートを纏っている、少女。ここらへんにある、普通の高校の制服だ。
だが、腕には『生徒会執行部』と書かれた緑色の勲章がある。
黒い髪は腰まであり、それらは風にふわりとなびいた。
「貴様ら」
まるで清水のような、綺麗な声で、少女は言った。
漆黒の双眸は、スっと、睨むわけでもなく、ただ見つめる。
「気合が足りんな」
「ぎゃぁぁぉあぁぁぁあぁ !!」
ゴフッ、ボカッ
九十九の足蹴りヒットと、一の拳が鋭く男たちの身体にめり込んだ。
物凄い音が、表通りで響く。
倒された彼らは、最近全国で騒がれるようになった、テロリストたちだ。
建物を爆破させる、銃で乱射し、人を脅して楽しむ、など、とにかくあくどいことをやっている犯罪者たちである。
そして、それらを殴り飛ばし、壊滅させたのは、たった一人の少女だった。
◆
まもなく、パトカーに乗った警察がやってきた。
気絶した男たちは、順番にパトカーの中に入れられていく。
サイレンが鳴り響くせいか、表通りには野次馬が集まっていた。
「はい、どいてどいてー」
そこに、一人の少年が人ごみをかけわけた。
黒い短髪に、黒の瞳という平凡な容姿だが(と言っても、少しだけ茶色が混じっている)、少女と同じ学校の制服を着ており、腕には同じく『生徒会執行部』という勲章がある。
少年は少女のもとへ行くと、呆れてため息をついた。
「…何してんだ、令子」
「…あ、飛雄馬」
少女は少年の姿を確認すると、ニパ、と笑った。
テロリストたちをぶっ飛ばしたこの少女。名は螢光院令子(けいこういんれいこ)。
普通の高校一年生だが、諸々の事情で、『生徒会執行部』の副会長を務めている。
そして、この少年の名は御巫飛雄馬(みかなぎひゅうま)。容姿とは裏腹に、珍しい名前だ。
彼もまた高校一年生なのだが、諸々の事情で『生徒会執行部』の会長を務めている。
彼らが住んでいるのは、とある世界の小さな町。
その町では、『魔術』も『超能力』、所謂『オカルト類』が認められている、奇特な町だ。
その為、『不思議な力』を持つ人間が警備に当たっていたり(その、不思議な人間が集まる集団を、『特殊部隊』という。『特殊部隊』隊員の年齢は様々で、学生からお年寄りまで存在する)、逆にその力を犯罪に使う人間も居る。
彼らが務めている『生徒会執行部』は、『特殊部隊』の系列の集団である。(しかし、立場は『特殊部隊』が上である)その為、事あらば実力行使を認められている。
…と、まあ。この『世界』の説明が終わったところで、早速本文へ戻ろう。
「…ったく、買い物途中でハデな音が聞こえたから来て見れば」
少年は、深く、深くため息をついていた。
「ここまでになっていたとは……。
どーするんだよ、始末書書かされるぞ」
そう言うと、令子はシラっとした顔で答えた。
「その時は、飛雄馬に任せよう」
「オイィィィィ!!」彼はすかさずシャウトする。
「なんなんだ、騒々しい…」
「いや、オレじゃないし! お前がしたんじゃん!!
これどう見たってオレ無関係だよなッ!? なあ!!」
若干涙目で訴える飛雄馬。
だがしかし、令子は更にこう言った。
「いや、会員の手柄は全員の手柄。
逆に、会員の失態は生徒会長の失態だろ?」
「うぐッ!! いや、確かにそうだけど…。
…はあ。オレ、全然悪いことしてないのに……」
「自分で言った事じゃないか」
令子にバッサリと言われて、シクシクと泣き出す飛雄馬。
「…泣くなよ、会長」
あまりにも威厳のない会長である。
令子は一つため息をついた。
(少し、やりすぎたか…)
苦い思いが広がる。
自分らは権利があるとはいえ、学生だ。
それが、全国を騒がすテロリストをぶっ飛ばせることが出来たとしても、やはり危ないことに首を突っ込むべきではない。
それが最近になって判るようになった令子は、慎重に行動するようにしていた。これでも。
(…けど、今回ばっかりは)
ふと周りを見渡すと、あの少女が立っていた。
どう見たって、十歳前後の外国人。
淡いのに、とても良く目立つ金髪だ。
瞳は、海や空を連想される蒼とも、樹海のような深い緑ともとれる、不思議な色。
そして、何よりも、異国というより、異世界の国のもののような、そんな服装を身に纏っていた。
少女がテロリストに抱えられていた——それを確認した時には、すでに身体が動いていた(そして冒頭に戻る)。
(私、小さい子には弱いからなあ…)
はあ、と思わずため息をつく。
ちょっと前、飛雄馬に「ショタロリコン」と言われたが(その時はローキックをかましてやった)、本当にそうかもしれないという疑惑が胸の中にあった。
(…でも私は、一応好きな人がいるから、ショタロリコンじゃないよな!? うん、そうだ! ただ単に小さい子が好きなだけなんだ!!)
どうでも良いことを自己完結させて(若干言い聞かせているような気がするが)、改めて少女がどのような流れでテロリストと共にいたのか、考えることにする。
(家族と一緒に、旅行で来ていたのだろうか?)
確か、ある国では、六月から夏休みというところがあった。
そうだとしたら、夏の休暇で家族と来たのだろう。
ならば、彼女は今、家族と離れ離れになっているのではないか。
放っておけなかった令子が少女に話しかけようとしたとき。
突然、少女の身体が揺れた。
(…? どうしたんだ?)
フラフラと、彼女は揺れ、そして。
バタン。
少女は、フライパンのように焼けたアスファルトの上で、うつ伏せになった。
「あぁぁぁぁ——!!」
「え、どした!?」
令子の叫び声に、飛雄馬が反応した。
飛雄馬は、令子の視線を辿り、同じように叫んだ。
「って、ああああー!! 女の子が倒れてるぅぅぅ——!!」
「早く、救急車!! 救急車!! えっと、一一〇番だっけ、一一九だっけ……」
大パニックになる飛雄馬と令子。
周りは、『何やってんのあいつら』という視線を彼らにぶつけていたが、そんな視線を汲み取ることすら出来ないほど慌てている、生徒会長と副会長だった。