複雑・ファジー小説
- Re: 罪とSilencer ( No.11 )
- 日時: 2012/07/19 23:23
- 名前: 檜原武甲 ◆gmZ2kt9BDc (ID: S20ikyRd)
第一話「依頼」
コンビニに暗殺者が一人。
「いらっしゃいませー」
隣の居酒屋のオッチャンを眺めて、どうせつまみを買いに来たのだろう。三戟紫炎は男を眺めながら、三日前に30人ぐらい殲滅したから懐も温かくなってきたためすき焼きでも食べようかと考えていた。
「お、兄ちゃん。今日もアルバイトかい? 大変だね……はい、505円」
三戟紫炎は今日もまたコンビニのアルバイトをする。なるべく一般人的な生活をしたいがためにだ。お釣りなく支払いをするオッチャンを(こいつ、アル中になるかわからない)と思いながら見送った。
「あのオッチャン、そろそろ脳卒中で死んでしまうだろうな……」
小銭を精算機へしまいながら呟いていると携帯電話が鳴った。
チャンチャーンチャカチャカチャンチャンチャカチャカ
「天国と地獄」を速攻で止めるとなるべく優しく持つようにして携帯を握り今から話すであろう人を心の中で引きずり回し、拷問の末、磔にしてから出た。
「なんでしょうか」
「なんもこうもないんだよ! オメェ、皆殺しにしただろ」
電話に出るとすぐに怒鳴りつけてきた『師匠』に頭を抱えたくなる気持ちを抑え、重く静かな声で
「いや、敵はサブマシンガンも持っていたんですよ? 正当防衛ですから」
「俺の弟子なんだからそんなこと楽勝だろ。一人ぐらい生かして連れてこいよ」
いつもの会話だ、毎回毎回注意される。
「いいですか? 師匠。僕はややこしいことに巻き込まれたくないんですよ。どうするんですか? 『お礼参り』に来たらめんどくさいでしょ。だから僕は殲滅するんです」
「ハハハハ、相変わらずだな。さて、次の任務なのだが……いいかな?」
「早すぎませんか? まだ三日ですよ。さらに僕はコンビニで働いているので————」
「『完負』が動いている依頼なのだが、そんなにいやなら回さないで上げよう。この知名崎宇検は人の嫌がることは嫌いだからな」
『完負』のところに息をのみ大きくため息を付くと
「…………すみません。やはり、その依頼を受託したいです。(この野郎、僕が食いつくことを知っていて!!)」
その返事に電話越しでも満足そうに頷いていることは簡単に分かった。
「じゃ、明日本部に来てね。時間は……朝の10時ごろで」
元気よさそうな向こうの雰囲気を感じながら、コンビニの店内に誰もいないことを確認し椅子に座った。
『完負』は、未だに生き残っているテロリストグループ。三年前、忌々しい事件とともに壊滅した名高い医療系組織『闇の医者』とは違って団結力と力が違う。なにしろ、幹部たちは自分たちを家族と呼んでいる。家族が殺されたら復讐に来るだろう。もう一つ、三年前にも内緒で事件があった。世間では公開されていない、もし公開されたら大男でも子豚みたいになって夜外出できないだろう。
新潟県の海岸からゴムボートで『完負』の一員が不法入国した。そいつは、捕獲しようとした元同業者を39人文字通り雲散霧消の状態にした。『完負』は能力持ちで効果が悪い人々から嫌われている存在の人の集まり。同情したいが彼らもそれを嫌がっている————同情したものを殺す————から絶対に同情しない。
「宇検なら完全に破壊できるだろうけどな……あの人ならアメリカ政府軍相手にできるからな……」
知名崎宇検は僕の上司で、師匠。あの人のおかげで忌々しい事件から生き延びて、強くなることができた原因。問題は皮肉を言う、嫌がることをする、その割には強すぎる。でも、腰に付けた傷だらけのデザート・イーグルを愛用しているのは公安の謎の一つだ。
「あの……買い物いいですか?」
目の前に優男が困っているという顔つきで150円のペットボトルをカウンターに置いて待っていた。
「あ、すみません。ボンヤリしていたので……」
「いや、別にいいですよ」
バーコードを一応読み取り、お金を受け取って、レシートとともにペットボトルを渡す。コンビニアルバイト、五ヶ月間で築いてきた経験が僕の腕を勝手に動かす。
コンビニ店員というのは大変な仕事だと自負している。接客業でありながら経営を自分で考え、商品の配置にも気を遣い、万引きにも注意する。もちろん、強盗も来るから気を付けなければならない。だから、一番やりがいある。達成感というやつだ。
「さて、明日は出勤か」
宇検と会うことに不安を抱きながら三戟紫炎は今日もコンビニで五感を使っている。