複雑・ファジー小説

Re: 罪とSilencer ( No.18 )
日時: 2012/07/31 23:39
名前: 檜原武甲 ◆gmZ2kt9BDc (ID: S20ikyRd)
参照: http://www.nicovideo.jp/watch/sm18337672?user_nicorepo

第三話「食事中」
安っぽいアパートの質素だが十分にそれぞれの栄養素が用意されている食卓に元警察所属特殊公安官が二人。
「ねぇ、さぁ。プラチナって『不埒な』って聞こえない?」
ポケモンの新作ゲームソフトのCMを見て音更謡は尋ねた。
「……今、僕はポケモンを楽しんでいるのだがそれを聞いた後だとR18に聞こえるな」
箸を動かして口の中にハム入り卵焼きを入れながら三戟紫炎は言った。
「確かに攻撃を交互に行うことすら実際におかしいからね。アニメだと避けたりしているのに……」
「そのプレイヤーが自分のポケモンがやられている姿を見て笑っている場合だってあるからな。かわいそうっていったらかわいそうだな」
「そうそう。やっぱり『殲滅』系の技があってもいいよね。ポケモンが燃え尽きて灰になる技で映像つき! 」
「まさか、君が『そのプレイヤー』なわけないよな!!」
「……この前ね。Wi-Fi対戦で遊んでいたらとんでもないプレイヤーが二人いたんだ」
「どんな?」
「一人は、「じわれ」「ぜったいれいど」「つのドリル」「ハサミギロチン」を必ず技で使ってきた。それでね……一番多かった攻撃が「はかいこうせん」」
「「破壊」大好きなプレイヤーか!!」
「二人目は、「ギガドレイン」「ヤドリギのタネ」などの回復系ばっかのプレイヤー」
「親のすねかじりで生きていそうだな」
「ま、私は必ずヌケニン入れるけどね!」
「『切り札』的な!」
「でも、正直ポケモンをあの小さいボールに押し込めるなんて鬼畜だよね」
吹き出しそうになった。
「ちょっと待った。なんか勘違いしてないか」
「え? ボールの中にポケモンを縮めて、液体状にして入れているんじゃないの?」
「食事中だから具体的には言わないが…… 生物をスライム状にして元に戻すような技術はあの世界にはないし、この世にもない」
「具体的に言っているじゃん」
「!!」
「つまり、ポケモンは……」
「やめろ!! 具体的に説明できないことだってあるんだ。あきらめろ」
「青ざめている顔からしていかにも不味かったんだね。……その手作り料理。私はおいしかったと思うけど」
「そういうことじゃない!」
二人で昔いつも会話していたように今も同じテンポで話すと楽しい。自分の体と口が喜んでいる気がする。
 
 『公安大学校』は僕たち能力者がこの世に多くて、犯罪組織に対抗すべくできた組織の部員を育てる学校だった。その組織の部員は……能力者兼犯罪者に対抗するために現役と新たな後継者だった。その後継者が『特殊公安官候補生』、僕と謡の元職業となっていたものだ。その学校はテロリスト『神々ゴット・イン・ゴット』というその名の通り破壊知れない強さを持った、たった二人の元同級生に殲滅されてしまったのだ。
 警察組織内で別枠の『特殊公安官』は大体の人が能力者だったからそれから一年は治安が低下。そして、能力者はだいぶ減った。
 いつのまにかの自然消滅が多かったから能力者は怯えたが、自分たちの身を守る技術ぐらい知っていた。次々と犯人は捕まり落ち着いた。しかし、学校が破壊されたことによって『特殊公安官』という仕事はなくなった。結果、今の仕事がつくまで僕はバイトをして何とか生活していたが僕らは会うことはなかった。
 

 テレビの天気予報が突然変わって緊急ニュースが流れ始めた。ニュースキャスターが急いで原稿を読んでいる。顔から汗が流れていてよほど急いでいたんだろうなと思いながらのんびり食事を続けた。
『今日の朝8時20分頃、中央自動車道で男女の二人組が突如現れ車を横転、道を封鎖したという情報が入りました。今、航空画像とビデオがあるのでそれを流します』
 銀髪でツインテールに赤いリボンで縛っている女と銀髪の短髪で、髪の毛はうなじが隠れる程度まで伸ばされている男が横転した車の上に座っていた。二人の共通点は、女は『左目に医療用の白い四角の眼帯』。男は『右目に医療用の白い四角の眼帯』をつけていた。その姿を見た途端、頭の回線で何かが光った。
「「『右目の片割れ』と『左目の片割れ」』!!」」
二人は同時に椅子から立ち上がり言った。
今テレビに映っているテロリストグループ『緋啼姉弟』は三年前の『特殊公安官』の時から重要人物としてマークされている。とにかく『姉弟喧嘩』で市街を焼け野原にすることから大変『世話が焼ける』子たちだったらしい。
 ポケットの携帯電話からいきなり電話が来たことに溜息をついた。どうせあの二人を倒してこいという命令だろうから。
「はい、なんでしょうか。師匠」
「今、テレビ見ているだろ? あの二人は誰かに雇われて行動している」
「なんでわかります?」
「その横転している車は今回のテメェの護衛対象が乗っていた。その護衛対象がピンポイントで狙われるなんてふつうありえねぇ。今、こっちは向っているから現地合流せよ」
「え…… 今、食事中ですが」
「じゃ、後で自分の肉を食い血を飲む昼食がしたいと願うならしょうがない。俺だけで倒そう」
「すみません。すぐ向かいます」
「居場所はメールでお————」
電話を切ると瞬く間に自分の仕事着に替えた。目の前の謡すら下着の一部も見えなかったので
「おっ!! すごいねー紫炎君」
と驚いていた。昔は早着替えなんてできなかったからどれほど能力を使えるようになったかがよくわかる。
「じゃ、見ての通り出勤しないといけないので後片付けは頼んだ」
「え!?」
有無を聞かずに玄関で靴に履きかえると振り向いて一つ聞いた。
「後でこの三年間何やっていたか、教えあおうぜ」
実に爽やかな顔だったが謡には実に憎たらしく見えた。
「おい! ちょっと待て! 私はここに住むなんて一言も言っていない!」
謡の切なる気持ちは届かず、紫炎はアッというまに出かけて行ってしまった。紫炎としては「宇検よりも遅くつく=『死』」という恐ろしい方程式がなっていたため最後の音更謡の呟きも聞こえるわけがなかった。
「私、殺し屋なんだけどな……」
三年前と同じように三戟紫炎と音更謡はキリンが首を振るのと同じぐらい大きく、重くそして哀しく振り回されていた。