複雑・ファジー小説

Re: 罪とSilencer ( No.29 )
日時: 2012/08/08 21:18
名前: 檜原武甲 ◆gmZ2kt9BDc (ID: S20ikyRd)

六話「隻眼とじゃじゃ馬 序幕」
 宇検が名乗り出た時の「紅きじゃじゃ馬」は、一部で『危険人物の代名詞』として使われていることに、椿は戦い始めてから思い出した。大体の二つ名は戦い方、服装、言動で決まるが、この知名崎宇検もまた三戟紫炎と同じく敵の本拠地を完全に壊す主義、敵に自分の情報を渡さない……故に名前は知れ渡ってもいない。
「どうした! かかってこい!」
眼の前に立っている宇検が、業界の間で噂されている『赤きじゃじゃ馬』だとすれば————倒したら、自分の強さが広まる! 椿は自分の実力を疑わず、名声を手に入れるがために本気になり、いつも以上に冷静に考えていく。
(『紅きじゃじゃ馬』の能力は既に分かっている。『通常平等バランス・キープ』という周りの物体(人間を含める)の『軸』を見ることができる能力と、いう情報を聞いた覚えが…… 『軸』を見ればどのような方向で襲ってくるか、躱すか、がわかるというから所謂未来予知といっていいのかな……)
 最初、拳で殴ってくると見ていたら拳の中にカッターナイフのようなナイフが、仕込んであったのを思い出して、自分の意見に納得した。
(軸を見極めて攻撃するならしっかり一撃を加えたほうがいい、だから肉弾戦にするわけだ)
「来ないならこっちから行くぞ!」
宇検が暴れ馬の鳴き声のように叫ぶと、助走を付けて殴ろうとした。普通の人なら斬り捨てることができるが、素早い動きで超近距離戦にしようとしてくる宇検を見て椿は策を考える。
さっきは桜とマシンガンで弾幕を張ったが、あっけなく避けられたからな…… 銃身の軸を読み取ったのだろう。軸が問題……と椿は落ち着いて考えていた。
 では、その能力を無効化する戦法でいけばいい————椿は黙って日本刀を構え、一歩も動かず、待ち構えた。軸を見て殺そうとするならば、動かず限界まで軸を動かさないようにして斬ればいいと決断した。
 
 確かにその決断はもし、今さっき『バランス・キープ』が生まれていれば効果はあっただろう。でも、宇検には経験があった。
「いい構えだ! そのまま銅像にしたいぐらいな!」
宇検は手ごたえがあるじゃないかと笑顔で———————————


 上に跳ね上がった。


 大体剣道というのは、真正面の相手と戦う武道。上空、裏からの攻撃は苦手だろうと予測した攻撃は、椿を慌てさせた。今の構えは中段の構えであって、どうみても上からの攻撃に対処できない。動いたら予測されて斬られてしまうし、かといって待っていても阿呆みたいに殺されてしまう。
 椿が脳をフル回転で稼働している時、宇検はライダースーツのチャックを開くと短刀を取り出した。短刀と言ってもヤクザが持っていそうな短刀で所謂『ドス』を振りかぶって脳天へ振り落そうとした。


「……っと。僕を叩きつけたからって忘れることはないだろ!」


 その時自動車から這い出てきた桜が、地面から飛んで姉を助けるべく短刀を浮かばせて襲いかかった。
                                                       続く