複雑・ファジー小説
- Re: 罪とSilencer ( No.34 )
- 日時: 2012/08/19 21:23
- 名前: 檜原武甲 ◆gmZ2kt9BDc (ID: S20ikyRd)
八話「隻眼とじゃじゃ馬 終幕」
狂乱状態というのは、ハイリスクでハイリターンの戦い方だろう。自分の守りを考えずにただ一心に攻撃することができるのだから。自分が斬られても痛みを感じなかったらなおさら強い。血塗れで戦う姿を見れば、敵も戦意を喪失するだろう。
「……と、語ってもどうしようもないわ」
一太刀も浴びせることもできずに防戦一方の私、緋啼 椿は完全に困り果てていた。
「ムダムダムダ!! ムダムダムダ!!」
「椿! なんでこの人は『非人道的な兵器』としてハーグ会議で使用禁止になったホローポイント弾の一種を叫んでいるの!?」
隣でおそらくフル稼働なのだろう、八本の短剣で敵のドスから姉のことなんて関係なく、自分の身を守っている桜が驚いていた。そりゃそうだろう……なんせ小細工が利かない初めての敵なのだから。
姉弟の能力はいろんな人の能力をコピーする能力。多彩な攻撃が特徴的で、このような『予想外な出来事』があっても対応ができるから急襲時に『上』からの命令で派遣されることが多かった。過激な戦いが多いが、自分たちの『コレクション』をそろえることもできると喜んでいたが、今は完全に後悔していた。
「桜! 『レベル制限』に気をつけなさいよ。私はまだ生きていたいから」
敵の強さにいら立って激しく戦うと『上』から『解雇』を告げられてしまう。それだけはさけたい。
「『聖剣状態、毒纏』」
日本刀の刀が毒々しい緑色になり、一気に敵のドスは腐食していく。自分の日本刀は敵の武器を切り裂いて、知名崎宇検という女に向かっていく姿を見た————————
—————そして、殴られた。
「本当にテメェら姉弟か? 詰めが甘ィ!!」
ドスの柄……しかもっていない左手で頬を殴られたことに椿は驚いていた。ふざけるなら大型ロボットに乗ったエースパイロット(?) の名言を叫んでいるところだが、冷や汗が急激に出てくるぐらい焦っている今、そんな冗談を言うことはできない。自分の聖剣は、宇検の肩に刺さっていた。腐った臭いがライダースーツから漂ってくる。『毒纏』はなんでも斬る……いや、毒で溶かすと言ったらいいのだろうか。弱点は材質によって溶ける速度が違うということ。
「椿。タイムリミットだよ……。『上』はアジトを変えるって」
「…………」
目の前の敵に一太刀浴びせるだけで終わってしまった自分の技量が少し恥ずかしくなった。周りの日本の警察が徐々に集まってくることをようやく把握した椿は、完全に戦闘不能状態に近くなっている桜の肩をつかみ、最終能力を頭の中で見つけ出した。自分もスタミナ切れで倒れそうになっているが……ここは姉として戦わないといけない。
「さて、俺のルールとしてテメェを殺さないといけない。というわけで死んでくれ!!」
椿と桜が支えあっている姿を見ながら、横一文字に利き手の右手に持っているまだ折れていない刀で斬りにかかった。
『瞬間移動』は、自分が認めている者を自分も一緒に想像した地点へ移動する能力と言ったら誰もが一度は欲しがる力だろう。ここで知名崎宇検のデータを残すことは私たち犯罪者にとって最大のお土産になる。
「私は貴方の情報を持って帰ります」
刀が振られる前に一瞬にして消えた椿と桜は少女を奪還するという目的を果たせずに帰還していった。
WIN知名崎宇検 (桜と椿の戦略的撤退)
〜〜〜〜新潟県山里の奥深く
『ああ…… しょうがないな。これだから…… ちゃんと壊してはいけないのかな……』
ガスマスク越しでのんびりと話している『上』は、隻眼姉弟を迎えるために立ち上がった。二人は良い成果を持ってきた。知名崎宇検は自分が海外にいた時も有名だったから。
『上』は上機嫌だった。
今宵も『上』の破壊衝動は来るべきために溜められていく。