複雑・ファジー小説

Re: 罪とSilencer ( No.37 )
日時: 2012/09/13 22:59
名前: 檜原武甲 ◆gmZ2kt9BDc (ID: S20ikyRd)
参照: ようやく更新できました。

第十話「三戟紫炎の不安」

 三戟紫炎は冷や汗をかいていた。戦闘ではなかなか冷や汗を掻かない三戟紫炎がものすごい冷や汗を掻いている。首筋から流れ落ちる汗は背中にそって落ちてゆくのを感じながら紫炎は営業用の真面目な顔で、吉祥恵那の両親と向き合っていた。
「君が、娘の護衛なのか」
「…………。はいそうです」
「こんな軟弱そうな男でいいの? もっと丈夫な男がいいんじゃないの?」
隣に座った着物を着ている優しそうな、吉祥恵那と同じような眼を持っている女の人が不安そうに言った。
「俺もそう思うのだけどな…… 君、何か能力を持っているのだろう?」

 情況————
窓が多い、明るい雰囲気の応接間。しかし、その雰囲気を壊すように周りに『黒服』が各隅に一人ずつ、計四人立っている。全員、武器を装備しているだろう。
三戟紫炎は自分の能力を見せることは少なくすることで自分の身を守ることができたと思っている。ここで、能力を見せることは危険度が上がるだろう、かといって見せないと自分の強さというのをわかってくれないはずだ。そこで考えたのは————

ガチャ

瞬き一つの間にこの吉祥恵那の父親の頭に拳銃を突きつけた
「!」
驚いた黒服が数秒後に武器を構えて銃口を紫炎の頭に向ける音が聞こえる。
(やれやれ……この調子だと警備はすぐに破られちゃうだろうな)

『七つ道具セブンズ・アサシン』は瞬時に自分の肉体のそばに『物』を運ぶことができる能力。時空を使って物を移動させる、そしてその時必要な武器や道具を取り出し、瞬時に戦える。もちろん、拘束されていても能力は使えるため、便利。但し、能力自体には強い力はない。

「き、きみ! い、いますぐ銃をおろしなさい!」
「お望みとあれば」
銃口を下に向けると手の中に吸収されるように消えた。クルクル回りながら小さくなる拳銃を手の中に収めると椅子に深々と座った。
 まず、依頼者クライアントを襲うこと自体間違っている。下手したら『退職処分』という暗殺されてしまう可能性がある。いつの間にかに裏切っていて政府の要人が暗殺されたら困るから、クライアントを襲うことは裏切っていると思ってもらってもいい。
「なるほど………… 俺は分かった。いや、ここは【わからなかった】とでもいうべきだったか」
「…………わかってくれて助かります。」

 父親の方は大きくうなずいていた。
流石、この大豪邸の持ち主、世界有数の大企業の社長、吉祥轡きっしょうくつわは頭の動きが速いようだ。最初、能力の内容を公開するのは忍者が自分の秘術を戦う前に披露するようなものだということを知らなかったか三戟紫炎を一度困らせてどう対応するか度胸の器を測ろうとしたか。吉祥轡の性格と言動からして三戟紫炎は『後者』だと読み取っていた。
「安心しろ。俺は上司に文句なんて言わん。久しぶりに精神力が強そうな男を見た。気に入った。これなら娘の敵が襲ってこなくなるまでここで住むのを許可しよう」
三戟紫炎は固まっていた。確かに「24時間警備する」と言われていたからきっちり周りと連帯して24時間警備しようと思っていたが、まず相手のテロリストが大きく、世代交代もあって、ずっと狙ってくるとなったら仕事内容は『一生警備』になってしまう。こんなところで人生を過ごすのは少し気が引ける。
「すみません、やはり僕のような弱い人間だと守りきれないと思うので……」
「気にするな。君には守れるだろう。おい、お前」
お前と呼ばれた轡の妻は立ち上がり、眼を向けた。
「玄関に引っ越し屋が来た。丁寧にお迎えして、恵那の向かい側の部屋に運ぶように指示を出しに行ってくれないか?」
「わかりました。一肌脱いで頑張ります」
着物の袖を捲ると、テクテクテク歩いていく姿を見てふと頭に引っかかったできごとがあった。
「あの…… 誰か引っ越してきたのですか?」
「君だよ」
「…………」

窓から見えるのどかな風景を見ながら、煙草を吸っている吉祥轡はかっこいいと思ったが、そんなことよりも電話しないといけない大切な人がいる。
 一生なんて酷い任務を押し付けようとした人に【お礼を言う】のは礼儀だと深く考えている三戟紫炎は携帯電話を取り出してタ行を開く。
【チナザキウケン(シショウ)】
三戟紫炎、いつも振り回される可哀そうな男。