複雑・ファジー小説

Re: 罪とSilencer  -更新しました- ( No.38 )
日時: 2012/09/18 22:22
名前: 檜原武甲 ◆gmZ2kt9BDc (ID: S20ikyRd)

第十一話「迷惑な行動」
「もしもし」
向こうからは汗を拭く音、エアコンが動いている音、そして何かの液体を飲む音が聞こえてくる。
「やぁ、紫炎。テメェの調子はどうだ?」
「……自分の人生が束縛されそうな気がして、このような事態に合わせた人間にRPGランチャーでもぶつけたい気でいっぱいです」
「ふむ……。RPGぐらいではだめだな。M1エイブラムスの主砲で、狙った方がいい」
「わかりました。早速、米軍御用達の戦車でお迎えに参ります」
紫炎は掌から黒い携帯電話を取り出し、アドレス帳を開き始めた。
米軍の偉い方に言っても、人間を恨みで殺すために戦車を貸し出してはくれないだろう。ここは知り合いの軍の工兵(能力者)にでもお願いして、戦車を作ってもらうとしよう。
「ちょっと待ってくれ。テメェ何か勘違いしてないか? お前の結婚相手を決めようとしたのはテメェの祖母だ」
 祖母という言葉に眉をピクンと動かすと大きくため息を付いた。三戟紫炎は、この復讐を果たすことはできないと思うとため息を付かずにはいられなかった。社会的、実力的に【自分の祖母】を殺すということはできないからだ。
「わかりました。それならしょうがないでしょう……」
「落ち込むな。テメェが敵対組織を全滅させれば結婚できずにできるんだからな」
すこし話がおかしくなってきていないかと紫炎はふと思った。
「今、『医学の女神』を狙っている人は多い。そいつら全員殺すということは悪という悪を駆逐することと同じだぜ。さぁ、紫炎! 落ち込まず敵を蹂躙しよう」
「師匠。思いっきり人任せにしようと考えていませんか? いや、人任せにしようとしているでしょう!! 師匠も戦闘員の一人です」
「……チッ」
「…………」
二人の通話に長い空白ができる。紫炎は呆れて、宇検は惜しいと嘆いていた。長く感情にふける会話でもない、一分間の空白だった。
「ま、頑張れ」
「師匠! さすがにそ————」
紫炎の訴えを遮るように声の音量を上げて紫炎に言った。
「そちらに、お前の部屋に有った物を【全部】送ったから。大変だったぜ」
「そりゃ、どうも」
「毎月一回は引っ越しを手伝っているからな。何しろ、頼まれたら断りようがない」
紫炎の頭では懐に札を滑り込ましている宇検の様子が目に浮かぶようだった。
「じゃ、荷物の整理よろしく」
そういうと宇検は元気よく電話を切った。
それに対し、紫炎はなんかまとめられた気がして少し首をかしげた。元は宇検を怒るために電話をしたのだが、話していると怒ることを忘れてしまっていることに大きくため息を付くと、ふと怒ってもこの状態を変えられるわけはないということにも気が付いていた。
 紫炎は携帯電話をポケットの中にしまい、目を瞑った。
(さて、どうやって敵を倒すか……)
「紫炎さん? お部屋に荷物を運ばせときましたよ」
後ろから吉祥轡の妻が肩をトントンと叩き、部屋に行くように促した。
 この人は悪くない。と目の前の女の人の眼を覗き込んで判断するとやはり悪いのは【祖母】だと考えるほかない。
「わかりました。早速、荷物整理を始めます」
「お願いしますね」
優しい声を背中で受け止めながら歩きだし、そして走り出した。

「すぐに外出して祖母を殺そう」

 紫炎は、これから長期間泊ることになる部屋に向かって走る。

三戟紫炎は祖母との戦いを思い出し、パターンを検討し、次の最善の戦い方を推測する。