複雑・ファジー小説
- Re: 罪とSilencer 第二十四話更新。宇検の正体明らかに! ( No.61 )
- 日時: 2013/04/08 21:22
- 名前: 檜原武甲 ◆gmZ2kt9BDc (ID: S20ikyRd)
- 参照: 今回は異常に長い話です。
第二十五話『クラーク・アルフレッドの願い』
日本、新潟県4月3日14時
『あれ? 通信が途絶えちゃった。 ま、オレの望みをかなえるとしよう』
携帯を閉じると、すぐに二人を置いて隣の部屋に向かってしまった。やつは一体何を叶えようとしている?
「動いちゃ駄目。次は心臓を止めるわ」
目の前の女が見張りで立っている。
「あの子の願いをかなえさせなさい」
「どうせ……日本全土焦土化とかだろ……どうやってやるかは知らないが」
「本当に何も知らないのね。ま、いいわ。そこで寝てなさい」
女は呆れたように言うとすぐそばにある椅子に座った。すると頭の中で
聞き覚えのある声が響いてきた。
【聞こえるか? 鳥栖蜻蛉だ】
「「っ!!」」
頼むからテレパシーに着信音ぐらいはつけてほしい。思わず驚きの声を上げるところだった。良かった、女はクラークが入っていった部屋の方を見ていて、気が付いていない。
【ロシアの情報部隊との交戦がついさっき終わった。敵の司令官は『神々』によって殺された。その時の有力な情報によると「クラークを助けるな」らしい。今、知名崎チームが向かっているから頑張って耐えてくれ】
「(って言われても耐えるどころか、僕たちは引退気味なんですけど)」
足は動かないし、僕だけ右腕も動かない。左腕だけでどうやって仕事をしろと言うのだ。いっそのこと株でもやるか?
クラークが部屋から出て来たようだ。動けないから声しかわからない……
『吉祥恵那、オレの望みをかなえてくれるとは本当か?』
「別にそれぐらいなら大丈夫ですよ」
…………は?
『では、オマエ。俺の能力を治してくれ』
「はい。いいでしょう」
能力を治す? いったい何が起きている?
「お……おい! 能力を治すとはどういうことだ!?」
クラークは返事をしない。
「クラーク!! 聞こえているのか!」
「聞こえないわよ。彼は聴力を失っているから」
代わりに目の前の女が返事をした。聴力を失っている?
「聴力を失っているってどういうこと? なにがあったの?」
「音更謡さん、クラークの能力について何も知らないの? 前に40人ばかしの貴女達の先輩たちを殺した時のことを知らないの?」
「ん……覚えてない」
謡、数日前に書類を読んだだろ。つうか忘れるのが早すぎだろ。
「全員、粉々になったと聞いた」
「紫炎君、それが彼の能力『道開き(レッツ・ブレイク)』よ。『道開き』は声で物を壊す能力。ガスマスクで声にノイズを入れないとすべて壊れていってしまう。私たち『完負』は人のためにはならない能力者の集まり。マイナスの能力でコントロールできない人が多い。私だってマイナスの能力者。いろんな機関が危ないから殺しに来るから応戦している、そしてテロリスト入りって訳」
「聴力がないって……まさか」
「謡さん、そう彼は自分の『道開き』での人生最初の被害者。産声で周りの人間を死滅かつ聴力を失ったところを私たちのリーダーが助けて育てていた。そして、社会に戻る日が来た。今日よ」
「しかし、ちゃんと罪を償ってもらわないと————」
「残念ながらクラークは姿を変えて生きていくことになるわ。たとえ過去に人を殺したことがあったとしてもそれは能力が原因だから。だから償わないわ。」
そこまで言うと女は僕の視界から消えた。どうやらクラークの傍に移動したらしい。
『さぁ、治してくれ!!』
クラークが頼むと言わんばかりに叫んでいる。
「わかりました。『医学の女神』」
クラークを助けてはいけないという言葉がふと頭の中で響いた。違和感があるのは謡も同じようだ。もし、クラークの能力が無くなったら彼は真っ先にマスクを取り大声をあげて自分の声を聴くだろう。それは別にいいことだ、彼の能力が治っているのなら。もし、『医学の女神』が治療する能力じゃなかったら? 病院では師匠の傷を治したけど、それは条件に当てはまっていて、元からの能力は治せなかったら? それを神々は知っていて、止めようとしたのでは? 治療できなかったら、能力が発動してここにいる全員バラバラで死んでしまうのでは?
謡も同じことを考えていたようだ。これは不味い、止めなければ。
「止めろ!! クラーク!」
必死に呼びかけるが喜びのあまりクラークは聞こえていない。嬉しそうな含み笑いをしながらガスマスクを取り、大声を上げた。
「やった……ってうわぁ!!」
クラークが口元からどんどん粉々になっていく。
「クラークさん? きゃぁ!!」
どうやら、見たところ失敗のようだ。早く抑えないと、周りがボロボロになって……被害が広がってしまう!
「隠匿を使う! クラークの声を閉じ込めるよ」
謡が能力を使って抑えようとしているけどクラークに一番近くて、驚いて座っている恵那を助けなければ。これは不味い。
「恵那さん、謡の方へ」
左腕を伸ばして服をつかみ、引っ張る。くそっ、僕の足が崩れていく。
「紫炎さん!」
謡が急いで僕を謡の方に引っ張る。ズルズル服が床に擦れながらなんとか助かった。両足は持って行かれたけど……
「よし、クラークの声を収めたよ。ウチが居なかったら紫炎君も恵那さんもバラバラだね」
謡が両手でボールを持つパントマイムをしているように見えるが、あの手の中にはクラークの悲鳴が入っているのだろう。自分の力でバラバラになったマイナスのクラーク・アルフレッド。彼の遺体はないし、周りには人体には影響のないほどの声で割れたガラス片だけ。かわいそうなやつだったな……でも、まず謡に感謝だ。
「本当に謡の隠匿があって助かったよ。音を防ぐ能力がクラークへの対抗策だからな……クラークが自滅しただけで済んだ……」
両足がない分元気がない……ん? なんで僕は死んでない? 痛みはないし……
「しゃべらないで! 酷い出血……能力を使っています」
なるほど、能力か。恵那さんの能力も調べないとな……
「紫炎君! あの女がいない!! って紫炎君!?聞こえている!?」
仲間の叫びを聞きながら眼を閉じてここまでのことを振り返ってみた。もし、謡と一緒にここに居なかったら新潟はふっとんでいただろう。そして、マイナスの連中『完負』についてもただのテロリストではないとわかった。だけど、まずは病院だ……
こうして、クラークとの戦いは終わった