複雑・ファジー小説

Re: 罪とSilencer  第二十五話更新。第一章終盤 ( No.63 )
日時: 2013/04/14 22:44
名前: 檜原武甲 ◆gmZ2kt9BDc (ID: S20ikyRd)

第二章『生者なき軍隊』


プロローグ

夏。ロシアの特殊部隊が北海道制圧を試みていることを知らない一般住民は特に海外のことも気にせず、それぞれおもいおもいに夏を楽しんでいた。
 蝉が鳴く東京都内にある涼しい冷房の中、主に若い年層の男女がゲームを楽しむ、ゲームセンターの中に人盛りができている。

「やばいよ。あの人、40人抜きだって……」

「まじで!? すげぇな……俺だったら勝てるかも!」

「やめとけって、あの列見ろよ。常連ばっかだぜ?そ
こに混じるのは恥ってやつだよ」

人盛りの真ん中に対戦型の格闘ゲームがあった。そこには眼鏡をかけた中年男と金色の目をした少女が男は熱く、少女は冷静に戦っていた。

「何故! 攻撃が当たらない!」

異常なほど筋肉が発達している男が女忍者を襲っているが、その攻撃は紙一重で躱されている。チャージ攻撃をした隙に忍者が強烈なカウンターを決めて体力を削っていった。決着はすぐつき、最後は奥儀で倒すというのは普通のプレイヤーと変わらないだろう。

「くっそぅ!! 負けた……もう金はない……」

「お金がないなら早く帰れば?」

男が悔しそうに呻くと悔し紛れにゲームボードを思いっきり叩いて出て行った。それを少女は気にせずに次の挑戦者を呼び寄せる。

「(つまらないな……もっと強い人が来ればいいのに……)」

挑戦者が譲りあいをしている様子を見ながら、呟いた。そう、呟いた瞬間だった。

【つまらないなら……吾輩の元へ来い。君を吾輩は必要としている……過去の君を……】

低い男の声が耳に入った。それと同時に少女の視界の片隅に黒いコートが映る。周りは熱狂している観客がいたはずなのに、何故か黒いコートは、はっきりと見えた。

「(な……なにあれ! 気味が悪い)」

黒いコートが視界から消えた時、

「さぁ、勝ってやるぞ!!」

「この人上手だな」

「プロかな」

「このゲームなら二番目のキャラクターがいいな」

「早く負けてしまえ」

「順番、早く回ってこないかな……」

周りの観客や挑戦者などなどの人間の思考が少女の頭に流れ込んできた。膨大な思考に太刀打ちすることもできず、ゲーム機の椅子から床へと倒れる。

「『記憶劫盗(コギト・エルゴ・スム)』……なんで戻ってきた……」

驚きの表情を浮かべながら少女、否、秤辺 冴里ショウベサオリの意識が途絶えた。この少女が大事なキーワードになるとは誰もこの時点では知らない。